中学・高校の実践事例

3年間で学ぶ起業家精神
〜総合的な学習の時間でアントレプレナー教育を〜
山形県・米沢市立南原中学校

実践のスパイラル構造

「わくわくカンパニー」のスパイラル構造

3時間目と4時間目は2年生の活動。2年生も3年生同様、2クラス52名全員が視聴覚室に集い、会社ごとの商品作りを行っている。

南原中では、2年生からこの起業学習を行う。2年生と3年生のカリキュラムはほぼ同じ。会社を作り、企画を練り、商品を作り、販売する流れは変わらない。

ではなぜ、ほとんど同じ流れを繰り返すのか。カリキュラムを組み立てた金先生のねらいはどこにあるのだろう。


「はっぴょう名人」でチラシ作り

「はっぴょう名人」でチラシ作り。“米沢のABC”とは、米沢の特産品である舘山林檎(apple)、米沢牛(beef)、米沢鯉(carp)を意味する。

「このカリキュラムは、1年生から3年生までをひとつながりに考えて組み立てたものです。1年生では、地元のお店をアピールするためのチラシ・ポスター作りを行いますが、その過程において、パソコンなどのスキル学習はもちろん、人とふれあい、つながり、地域への造詣を深め、伝えたいことを伝えることの難しさと面白さを学びます。これが2年、3年での起業学習の礎となります」

1年生は基礎作り。地域の中の自分を確認し、スキルアップを図る。しっかりとしたベースが起業家精神を押し上げるのだと金先生。
「その上で、2年生と3年生で同じ活動を繰り返す。当然、初めて経験する2年生はムチャもしますし、計画通りに進まないことも多い。でも、2年生の1年間だけで活動を終えてしまったら、改善点も反省点もそれ以上振り返ることができないですよね。3年生でもう一度行うからこそ、前年の多彩な経験が生かされ、才能の自覚とともにより良い商品作りが、そして安定した会社経営が可能となるのです」

1年2組担任の日下部先生もこう語る。
「1年生は、2年生、3年生の活動をよく見ています。来年はあんなことをやるんだなと楽しみに思う子も多く、ゴールが見えていることで今やっていることの意味を理解し、意欲的に取り組みます。1年で作るチラシやポスターは、実際にお店の人に評価していただき、高評価であればお店に貼っていただくこともあります。お店の人を、そしてお店に来るお客さんを意識するという経験は、起業学習の中でも必ず役立ちます」

書いたPOPや商品説明を、販売テーブルにどう置くのか尋ねる金先生。

書いたPOPや商品説明を、販売テーブルにどう置くのか尋ねる金先生。お客さんから見えやすいように、風に飛ばされないように。想像力が試される。

このカリキュラムのスパイラル構造が、学びを一段高いものにする。生徒たちは南原中での3年間を通じ、自ら生き方を探求し、進路を切り開いていく力強さを得るのだ。

守りに
入るべからず

今年度、校内特許という形で行われた知財学習

今年度、校内特許という形で行われた知財学習。来年度はこれをカリキュラムに うまく組み込んでいきたいと金先生。

2年生と3年生で異なるポイントがある。それは活動の端緒であるグループ分けだ。
「3年生はクラスごとにグループ分けを行っていますが、2年生ではオープンにし、クラスという枠を取り払ってグループ分けを行いました。2年生も3年生も、それは生徒たちが決めたことなんです」

そう話してくれたのは、2年1組担任の木幡先生。
「1年生から2年生に上がるときにクラス替えがあるので(2年生から3年生は持ち上がり)、余計にオープンにしようという意見に傾いたのかもしれません。その分、学級対抗的なライバル意識は希薄ですが、焼き印入りの箸やドリームキャッチャーというお守り、香りのカプセルなど、今までに見られなかった商品も続々企画されています。どれだけ商品として完成するか楽しみですね」

木幡先生の言葉に金先生もうなずく。
「3年生は、2年生のときの経験を基に、堅実な商品作りを目指す傾向にあります。売れる商品作りは悪いことではありませんが、それがときに保守的になりすぎるきらいがある。その点が今後の課題ですね」と金先生。

そこで、来年から本格的にこの起業学習カリキュラムに組み込もうとしているのが「知財学習」だ。
「独創的な商品アイデアや、ユニークな製造法など、生徒たちの創造力に対して何らかの優遇処置を設けるなどすると、3年生でもアグレッシブな商品開発が可能になるのではないかと考えています。融資を受ける際の優遇であれば、より真剣味が増すかもしれませんね」

南原中の実践は、こうして日々進化を続けている。

生徒たちはこの後、二度の販売学習を経験し、収支決算を行う。そこで改めて、お金の大切さや社会の厳しさ、そして人のあたたかさを感じることになるだ ろう。

単元名は「わくわくカンパニー」。その名の通り、生徒たちは数多の「わくわく」を体験し、失敗と成功を積み重ねて「生きる力」をはぐくんでいく。


>>南原中の起業教育全体計画はこちら!


金 隆子先生
金 隆子(こん・たかこ)先生

「教科の壁を越え、先生方も相互に支援する体制で挑んでいます。先生方の思いがけない特技に助けられたり、他教科を知ることにもつながったり。先生の楽しさが、生徒にも伝播していく実践です」


木幡 美穂先生
木幡 美穂(こはた・みほ)先生

2年1組担任。「先輩・後輩の間での情報交換も積極的に行われているようです。そんな中でライバル心も芽生える。生徒たちは自然に、競争しながらも協力し合える関係を築いていくんですね」


日下部 登先生
日下部 登(くさかべ・のぼる)先生

1年2組担任。「保護者や地域の方々とのつながりがより強固になるカリキュラムです。地域密着型の学びで郷土愛を培い、社会と関わることで コミュニケーション力を養う。まさに“総合”です」


植木 修先生
植木 修(うえき・おさむ)先生

3年2組担任。「この実践を通して強く感じるのは、生徒たちの“やらされ感”のなさですね。その自発的に取り組む姿や作業への集中力は、実生活に直結する学びである証拠でしょう」


取材:西尾真澄/撮影:西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。