中学・高校の実践事例

3年間で学ぶ起業家精神
〜総合的な学習の時間でアントレプレナー教育を〜
山形県・米沢市立南原中学校

山形県米沢市立南原中学校

生徒たちが会社を作る。
事業計画を練り、地元の素材を生かした商品を企画し、実際に作って販売する。
登記こそしない仮想会社だが、その学習の流れはまさに本物の体験だ。
実社会に生きるカリキュラムを、3年間というスパンでトータルに組み立て実践する、南原中を取材した。

社会に生きることを学ぶ

企画書を確認しながら商品作りを進める

企画書を確認しながら商品作りを進める。ラッピング用の紙パッキンはシュレッダーで作成。傍らではパソコンでチラシ作り。

1時間目。3年生2クラス、57名全員が視聴覚室に集まっている。
「今日は、それぞれの会社の予定に従って、引き続き商品作りを行います」

そう生徒たちに告げるのは、総合的な学習の時間を担当する金先生。
「最初に今日の予定を立てて、暇な社員が出ないように社員全員で分担を確認してください。10月7日の販売まで、今日も含めてあと9時間です。いつも言っているように、時間もコスト。時間を大切に使いましょう。それから、お金をいただく商品ですから、作る上で仕上がりを意識すること。買っていただいたお客様が、買って良かったなぁと思ってくださるような商品作りを心掛けましょう。もちろん、作業中はケガのないように。それでは始めてください」

開始を促す金先生の言葉に、生徒たちは迅速に社内会議を行い、社長の下、今日の予定を確認する。

また、黒板にはあらかじめ、各会社名が書かれたマグネットシートが掲示されている。今日の行動を確認した生徒たちは、自分の名前と役職を書いたシートを自社のシート下に貼り付け、「技(=技術室)」「美(=美術室)」「視(=視聴覚室)」等々、今日はどの教室で作業をするのか書き込んでいく。これはまさに実際の会社にある行動予定表そのままの機能を再現したものだ。

己の才を見いだす

3年生の「今日のめあて」

3年生の「今日のめあて」。丁寧に、安全に、時間を大切にと金先生。

時間もコスト。金先生の言葉は生徒たちに十二分に浸透している。すぐにミシンを用意し糸調子を見る生徒、パレットを広げ次々と絵の具を置く生徒、マーカーを手にしてPOP作りに取り掛かる生徒、足早に技術室へ向かう生徒。分担確認後、作業への取り掛かりは素早い。

こうして商品作りに至るまでに、生徒たちはさまざまな過程を経てきている。金先生のお話は、この単元の初めに行われるグループ分けにまでさかのぼる。
「社長に関しては、リーダー的存在の子が立候補、もしくは皆の推薦を受けるなどして、それほど時間もかからずに決まります。しかし、社員の割り振りは、時間をかけて、慎重に、ときに大胆に行うことが必要となります」


行動予定表

行動予定表。この表示を見ればすぐに、誰がどこにいるのか分かる。

社員である生徒たちは、まず自分に向いていると思われる役職を選ぶ。役職は5つ。経理、仕入れ、製造、宣伝、販売がそれだ。
「社員が希望の役職を決めたところで、社長は自分がどんな会社にしたいのかプレゼンを行います。その上で社員は、どの社長の下で働きたいかを決める。でも、当然のように役職の偏りが出てしまうんですね」

1つの会社は6〜8名で構成される。社員が経理ばかり、製造ばかりでは会社は立ちゆかない。役職の偏りをなくすために社員同士で融通しながらも、どうしても偏りを解消できない場合には社長会議にかけられる。社長は同時に人事部長でもあり、人材確保のための交渉術も必要となる。

この実践の中で一番丁寧に、時間をかけて行われるというグループ分け。入念に考え抜かれた人事に、社員からの異論は出ない。


社名に込めた思い

生徒たちの思いがたっぷり詰め込まれた、会社のロゴマーク

生徒たちの思いがたっぷり 詰め込まれた、会社のロゴマーク。

人事を終えたところで、各社は社名とロゴを決める。もちろん、社名やロゴには並々ならぬ思いが託されている。

例えば 「笑3(えみ)」という社名は 「"笑顔の絶えない会社にしよう""ずっと笑っていられるように""お客様に笑顔を"という3つの"笑"で頂上を目指したいと思い、名付けました」という。また「麒麟(きりん)」という社名は、「麒麟の身長が高いように、売り上げもナンバーワンを、ということでこの社名にしました。麒麟のキは"協力して"、リは"臨機応変"、ンは"みんなで"ガンバル"という意味を込めています」と、折句の説明もしてくれた。

いずれの会社も、どの社員に聞いても、まったく言いよどむことなく的確に社名の由来を答えてくれる。この活動を続けてきた中で、社名に込めた思いはしっかりと社員に浸透しているようだ。