中学・高校の実践事例
3年間で学ぶ起業家精神
〜総合的な学習の時間でアントレプレナー教育を〜
山形県・米沢市立南原中学校
銀行をうならせる企画書作り
借用書。返済日や利子、返済総額などが記入されている。
そうしていよいよ企画書の作成へと移る。作る商品は地元の素材を生かしたものでなければならない。どんな商品を、どの程度の値段で売るか。材料の値段は?制作時間は? 設備的に制作可能? 利益率は? 商品名は?……考えなければならないことは山ほどある。地元のバザーや産業祭りで、実際に一般のお客さんを相手に販売する以上、むやみに値段の高いものや、クオリティの低いものでは売れないし、そもそも恥ずかしい。
また、商品の材料を仕入れるためには、どの会社も"教頭銀行"から融資を受ける必要がある。融資を受けるには、十分に練り上げられた、説得力のある企画書が必須だ。企画書に記載される商品の製造方法ひとつにしても、他人がそれを見てすぐに作れるレベルにまで昇華させなければならない。
企画書を基にプレゼンを行い、"教頭銀行"を納得させられれば融資を受けられる。安易な企画では通らないのだ。
いくら借りれば事足りるのか。キリがいい数字にして余分に借りれば、その分利子も増える。"教頭銀行"の金利は2%。利子の計算も必要だ。
"教頭銀行"からお金を借りることができたら、次は仕入れ。安くて良いものを仕入れるために、ホームセンターや文具店、100円ショップなど、さまざまな店を回る。ときにはオンラインショップも活用。振り込みこそ先生の手を借りるものの、それ以外はすべて自分たちの手で、足で探し、材料を得る。お金が足りなくなっては一大事。綿密に計画を立て、どの店で何をいくつ買うのか、仕入れ部長が指示を出し、皆で東奔西走する。
具現化への高い壁
カプセルトイのカプセルに彩色を施す。商品名は「香りんご」。カラースプレーでは化学反応が起きてカプセル表面が荒れてしまったため、アクリル絵の具に変更。
材料が揃ったところで、試作品作り開始。が、いざ作ってみると、なかなか企画書通りにならない。理想と現実のギャップに苦しみながらも、「お客さんに喜んでほしい」という一念で頑張る生徒たち。試作品がようやく形になると、商品への愛情を感じるようになったと生徒たちは言う。
試作品は量産化への一歩。量産しやすいように改良が施される。しかし、限られた時間、限られた材料。何度も試作を重ねるだけの余裕はない。コスト意識を明確に持ちながら、ギリギリのラインでより良いものを作ろうとする生徒たち。ここが頑張りどころだ。
取材に訪れた日は、試作の最終段階に入っている会社と、試作を終えて量産化体制に入っている会社とがあり、量産中の会社では、商品の質のばらつきが出ないよう、流れ作業で製造に取り組んでいる姿が見られた。3年2組担任の植木先生は、全体を見回りながらこう話す。
「商品の製造方法が、裁縫や木工など、今までにその片鱗だけでも体験したことのある作業であれば、試作から量産へと比較的スムーズに進みます。一方で、インターネットや本で調べた手法を取り入れ、社員の誰も経験したことのない作業を伴う会社の進度は、総じて遅い。その代わり、うまくいけば売れる商品に直結します。そのカギは量産できるかどうか。まさにハイリスク・ハイリターンですね」
笹野一刀彫りの材料でもあるコシアブラの木を用いてコースター作り。鉛筆で下絵を描き、焼きごてで仕上げる。
牛乳パックで紙粘土作りからトライしている会社。草木染めでなかなか思うような色が出せず、試行錯誤を繰り返しながらも、ようやくキレイな色が出て先に進める会社。炭焼きに挑戦し、技術員さんとともに焚き火を囲む会社など、その商品アイデアは多岐にわたる。各教科に横断的にかかわりを持つ総合的な学習の時間の実践だけに、担当学科の垣根を越えて先生方の力が結集し、支援も熱を帯びるようだ。
「技術員さんに作業をお願いする場合は、"資材加工予約表"というカードに加工内容や仕上がり希望時刻などを記入して依頼します。確実な仕上がりが得られる代わりに発生するのが技術料。1点につき10円という設定なので、単価への影響は必至。その価値を正しく見極めないと、最終的な収支が大変なことになってしまいます」と植木先生。
2時間目までが3年生の活動。1時間目と2時間目の間の休憩時間も、作業に没頭している姿が印象的だ。
技術員さんへの依頼書。いつまでに何をお願いするのか、技術料も記入。 |
技術員の今井さん。「とても器用で、工芸全般に詳しく、皆の知恵袋です」と先生方も口を揃える。 |
外では技術員さんと炭焼きに挑戦する会社が。松ぼっくり、竹、カボチャを炭にする。前回の挑戦では、使用する松ぼっくりが湿っていたため失敗。今回は乾いたもので再挑戦。 |
無事焼き上がった松ぼっくり炭。成功すれば一気に量産できる。 |