中学・高校の実践事例

一坪の花壇から広がる 気づきと学びの環
〜技術と情報の統合的カリキュラムの作成〜 富山県南砺市立井口中学校

それぞれの学び

 「秋色」実現のための植物選び、資材探しのための情報が先生から提示される

「秋色」実現のための植物選び、資材探しのための情報が先生から提示される。単なる見た目だけでなく、栽培のコツや値段など、多角的に検討するための情報が示されるのがポイントだ。

一通りの説明が終わり、生徒たちは具体的な 「秋色」の実現方法の検討へ。一方のグループはすぐさま立ち上がって、屋外の花壇に向かい、残る一方は花壇の平面図を模したシートを囲み、花々のプリント資料と首っ引きで話し合いを開始した。自分たちのグループに適した取り組み方法をそれぞれに模索し、工夫しているのが面白い。

アプローチは違っても、生徒たちの言葉に耳を傾けると、限られた予算と時間の中で、手持ちの資材などをいかに生かしながら花壇の新しい表情を実現するか、に集中していることが分かる。

 

グループごとの取り組みスタイルは対照的。一方のグループはすぐさま戸外の花壇へ直行し、もう一方のグループは教室内でミーティングを開始した

グループごとの取り組みスタイルは対照的。一方のグループはすぐさま戸外の花壇へ直行し、もう一方のグループは教室内でミーティングを開始した。

安達先生からは 「秋色」実現の費用として3000円という予算が提示されており、これも生徒たちにとって重要な判断・活動の指針となっているのだ。予算に限りのあることが、手持ち資材の再利用・有効活用という発想をも、自然に引き出していく。

しないさせない
「作りっぱなし」

こうした取り組みの中で情報取り扱いのスキルを高めると共に、著作権などの情報モラルについての学びをごく自然に折り込んでいく安達先生

こうした取り組みの中で情報取り扱いのスキルを高めると共に、著作権などの情報モラルについての学びをごく自然に折り込んでいく安達先生。

再活用するのは資材だけでなく、知恵や工夫も同じだ。

授業の後半は、しっかりと時間を取って今までの取り組みの記録をまとめ、振り返ることにあてられる。デジカメによる記録撮影や、パソコンを生かしたまとめシートの作成を通じて、情報活用のスキルが獲得されていくわけだ。

ここで安達先生が生徒たちに水を向ける。

 

実作業の後にはまとめを行う

実作業の後にはまとめを行う。

「みんなが作っているまとめ資料にもBGMを付けたりすると、見てくれる相手に花壇のイメージがよく伝わるよね。でもそういうとき、この間勉強した著作権に注意してくださいね」

一坪という枠は生徒の工夫を生み出し、花壇を野放図に 「作りっぱなし」にしないための制約となっている。そしてプロジェクトの記録とまとめは、そうした工夫や活動をその場限りのものにさせないための取り組みなのだ。

この活動が単なる 「栽培」ではなく、見せるための 「ガーデニング」であることの意図に気づかされた。

さらなる
広がりを求めて

この日の授業はこれにて終了。放課後、安達先生のお話を伺った。
「そうです。ガーデニングという形を取ることで取り組みの成果を『見られる』こと、すなわち『発信』することが意識に上るんですよ」

やはりそうだったのだ。 「グループで」力と知恵を合わせて 「栽培する」その花壇の 「成果の編集と発信」。ここに技術科本来の 「栽培」 「ものづくり」といった要素と、情報にまつわるスキルやモラルという学びが統合された姿がある。

現在、安達先生による技術実践のカリキュラムは中学校3年間にわたって立体的に構築されている。詳しくは右表に譲るが、その学びは発展を軸に反復をちりばめたスパイラル構成とされ、生徒の学びを深めていくよう考慮されているのが特徴だ。

「技術の時間内でできることは、かなりの程度、連携した組み立てができてきたと思います。この先は、さらに教科の境を超えた 「クロスカリキュラム」的な枠組みを作り、学校生活全体の中で、生徒たちが情報と向き合い、自分自身で考えることのできる力を養っていきたいですね」と安達先生。知の蓄積と再利用という観点から、知財教育をも意識した校内特許制度のような取り組みも視野に入っているという。

その歩みはまだまだ止まらない。

>>井口中学校の取り組みの流れはこちら!

◆富山県南砺市立井口中学校

緑豊かな田園地帯に位置する井口中は、ここ数年、学年あたりの生徒数が10数名という小規模校。しかし、それゆえ生徒一人ひとりに目の行き届いた指導を目指している。松田昭治(まつだ・しょうじ)校長。生徒数38名。

取材:西尾琢郎/撮影:齋藤浩(スタジオエイブル)
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。