中学・高校の実践事例

一坪の花壇から広がる 気づきと学びの環
〜技術と情報の統合的カリキュラムの作成〜 富山県南砺市立井口中学校

富山県南砺市立井口中学校

富山県南砺市は、いわゆる 「平成の大合併」により、8町村が合併して生まれた新しい市だ。誕生間もないこの地に、技術科本来の学びと今日的な情報教育との融合を目指したユニークな実践があると聞き、早速伺った。

ロボコンから生まれた
一坪ガーデンの取り組み

井口中の授業の様子と本年度の一坪ガーデニング

(写真上)井口中は全学年が10数名の単学級。それゆえに先生の目はすべての生徒に温かく注がれる。限られた授業時間はコミュニケーションの深さでカバー。
(写真下)これが本年度の一坪ガーデニング。アスファルト上に木枠を組んだ「一坪」を舞台に、生徒たちの思いが詰め込まれた夢の庭が完成した。

私たちが井口中を訪ねたのは9月のこと。まだ夏の名残が感じられる季節ながら、北陸のこの地には確実に秋の足音が迫ってきていることが感じられる。

井口中で技術を担当しているのは安達渉(あだち・わたる)先生。井口中へ赴任してきたのはこの春だが、その前任校以来取り組んできているのが 「一坪ガーデニング」の実践だ。

安達先生はこう話す。 「中学校の技術科では、今、ロボコンが注目されています。本校でも、3年生の授業ではロボコンに挑戦していて、大きな成果を生んでいます。この一坪ガーデニングは2年生の授業なのですが、実はこれ、ロボコンから思いついたものなんですよ」

ロボコンからガーデニング!? 一見突拍子もなく思えるこの取り組みの狙いはどこにあるのだろうか。

栽培学習を超えて

赴任後間もない安達先生が、井口中で一坪ガーデニングを実践するのは今年が最初。しかし、前任校での豊富な成果が生徒たちの目指す目標として生かされる。

赴任後間もない安達先生が、井口中で一坪ガーデニングを実践するのは今年が最初。しかし、前任校での豊富な成果が生徒たちの目指す目標として生かされる。

「ロボコンから生まれた、と言うのは、この取り組みがグループでの作業を中心にしているからです」と安達先生。

「本校は小規模校ですから、生徒たちは小学校の頃から互いをよく知っています。そのため学級活動でも、好きな者同士そのまま班になってしまいがちなんですね。ですがもちろん世の中に出れば、自分の好き嫌いだけで相手を選ぶことはできません。この取り組みでは学級での班を解体して、グループを新しく作ることからスタートしています。そのグループの中で、会計、デザイン、統括などの役割分担を白紙から行い、各人がその役割を果たしていくことを目指しているんです。グループの全員が自分の責務を果たして初めて成果が生まれるという意味で、ロボコンの精神に通じるものがあると思っています」

生徒同士の強い結びつきは小規模校の長所でもあるが、それだけではない人間関係のあり方を体験させることに目を向けたことが出発点というわけだ。

「他方、技術科としては、近年、栽培学習の機会が減る一方なことに危機感を持っていました。限られた授業時間の中で、こなさなくてはならないことが増えるばかりですから、手のかかる取り組みから省かれてしまうんですね」

こうして着想された 「グループで取り組む栽培学習」。しかし安達先生はさらに欲張りだった。

「そこまでなら『草花を育てましょう』でよかったんでしょうが、あえて『一坪ガーデニング』と銘打つことにしたんです」

なぜガーデニングなのか。どうして一坪なのか。その答えは授業を見てから改めて尋ねることにしよう。

 

一坪ガーデンを
秋色に染めよう

栽培の実作業とその記録のまとめとは、必ず一対のものとして行われる。「作って終わり」ではなく、取り組みについてまとめ、振り返ることで学びが深まる

栽培の実作業とその記録のまとめとは、必ず一対のものとして行われる。 「作って終わり」ではなく、取り組みについてまとめ、振り返ることで学びが深まるのだ。

いよいよ授業がスタート。今年の2年生は10名の単学級。すでに春から栽培学習に取り組み、2つのグループがそれぞれの一坪ガーデンを作り上げてきた。今日から取り組む新しいテーマは 「一坪ガーデンを秋色に染めよう」。間もなく訪れる秋に向かって、その季節にふさわしい花壇へと、自分たちの一坪ガーデンを生まれ変わらせようというものだ。

安達先生はホームセンター等で撮影してきた写真をプロジェクターで投影しながら、秋の花壇に似合う花々や、装飾のための資材などを次々に紹介していく。

 

生徒たちの関心を引きつける、安達先生手書きの取り組み紹介用掲示

生徒たちの関心を引きつける、安達先生手書きの取り組み紹介用掲示。生徒たちのモチベーションを高めるため、考えられる手は惜しまない。

「本当は生徒たち自身に素材集めをしてもらいたいんですけどね」と先生はこぼすが、限られた授業時間の中で行う取り組みには、こうした支援も不可避のものだ。とは言え単なる 「キレイな花の紹介」ではなく、その栽培上の特質や値段など、多面的な価値判断のできる情報をさりげなく提供しているあたりが 「さすが」とうならされるところ。生徒たちも思い思いにうなずき、またメモを取りながら画面に見入っていた。