小学校の実践事例

ICTを生かして獲得する"情報"的視点
〜 自ら学ぶ子どもたちのために〜
岡山県・和気郡和気町立佐伯小学校

"情報"的思考が
子どもたちを変えていく

授業が終わり、木村先生と津田先生にお話を伺うことができた。佐伯小で、ICT活用推進の中心的な役割を果たしてきたのが木村先生だ。

「私は本校着任以前に1年間、県の情報教育センターで研修を行っていました。テーマはデジタルコンテンツを活用した学習です。その研修を終えて、さあやるぞと着任したのですが、最初にやらなくてはならなかったのは、子どもたちに『自分から学ぶ』姿勢を養うことでした」

佐伯小の子どもたちは脳に汗してひたすら考え、それをまとめ上げていく。

ICT活用を意識しつつも、単純なコピー&ペーストのような学習に終わらないのが佐伯小流。子どもたちは脳に汗してひたすら考え、それをまとめ上げていく。

お父さんの立場で書くという課題によって、子どもたちが書いた『カレーライス』と題された作文。

教室に掲示された『カレーライス』と題された作文。お父さんの立場で書くという課題によって、子どもたちが書いたものだ。複眼的な視点を持ち、相手の立場で考えるというこの取り組みも、れっきとしたメディア教育の一環だ。

この日の授業の締めくくりとして、一通りの証拠にたどり着いた子どもたちの発表が行われた。

この日の授業の締めくくりとして、一通りの証拠にたどり着いた子どもたちの発表が行われた。次回はさらに多くの子どもたちが「自分の証拠」をたずさえて発表に加わるはずに違いない。

そのために木村先生が採ったのは、一種のショック療法だ。研究してきた画像利用の授業すら飛び越えて、一気に映像を活用したビデオ制作に取り組ませたのである。高山の山頂にヘリコプターで乗り付け、一気に斜面を滑り降りるヘリスキーよろしく、これまでの授業とは段違いの高みを体験させることで、学ぶことの喜びや、自分たちの可能性を知った子どもたちは、「教わることから学ぶことへ」という意欲を手に入れた。以降は逆に、しっかりと「何のために」という目的から積み上げた取り組みを重ねて、今日の授業のスタイルが生み出されてきたという。頂からの眺望の素晴らしさが登山家をいざなうように、子どもたちは学びの喜びに目を見開かされたのだろう。

一方、この日の実践者だった津田先生はこう話す。

「佐伯小ではいつでも、どのクラスにも、自然にいろいろな先生が出入りできる雰囲気があるんですよ。特に木村先生は職員室で『今日はこんな授業を……』と、わざと大きな声で話されるので、ついのぞいてみたくなるんです(笑)」校内研などといった形式にこだわらず、日常的に互いの授業に触れ、あるいはサポートし合う。佐伯小の生き生きとした授業の秘密はここにもあった。

「ICT活用というと、どうしても機器利用に目が向きがちですが、大切なのはその結果として子どもがどう変わっていくかだと思っています。それは例えば、多角的なものの見方や、比較する視点、課題を自分で見出すことのできる力やその意欲なんです」と木村先生。

「Google Earthには、私も子どもたちも今日の授業で初めて触れたんですが、簡単に操作できました。授業の終わった後も子どもたちは興味津々で……。休み時間に世界遺産などの遺跡を見たり、調べたりすることで、日本だけでなく世界の歴史にも目を向けつつありますね」と津田先生。

道具が思考を促し、思考がさらに道具の力を引き出していく。派手さも、目を見張るような設備もないこの教室に、ICT「活用」のひとつの理想を見た気がした。

ICTは授業だけでなく
学校自体を変えていきます

井上博夫校長先生井上博夫(いのうえ・はくお)校長先生

「本校では“スピーチ朝会”という取り組みを行っているんですよ」

井上校長先生が紹介してくれたこの取り組みは、各学年が回り持ちで、自分たちの学習について他の学年に紹介するというユニークな朝会だ。

「発表内容はさまざまで、プレゼンシートを使った発表もあれば、お遊戯、お芝居のようなものもありますね」と井上先生。

このスピーチ朝会は、子どもたちの日々の学習における動機付けとして働くとともに、その様子を保護者に伝えることが、子どもの学習への関心を高め、家庭での親子の話題にもなっているという。

「ですから、学年(単学級なので学級でもある)だより、学校だよりはとても大切なものだと考えています。それをカラーにできたら、もっともっと、伝えられるものが広がっていくと思うんですよ」

そんな井上先生が期待するのが、GELJETプリンターだ。

「学校にはカラーレーザープリンターもあるんですが、とにかくランニングコストが高いので、飾り物になってしまっています。GELJETではモノクロと同じくらいのコストでカラー出力ができる機能があると聞きました。実際に試すのはこれからですが、楽しみですね」と井上先生。

一太郎をその前身である『JX-WORD太郎』の時代からお使いだという井上先生。ICTを特別視することなく、その利点を、授業のみならず学校全体のよさにつなげる取り組みを重ねている姿が印象的だった。


◆岡山県和気郡和気町立佐伯小学校

岡山県東部に位置する和気町は、2006年3月に旧佐伯町と和気町とが合併して生まれた新しい町だ。佐伯小学校は、町の北部を占める旧佐伯町の中心部に位置している。古代の古墳群や中世の山城など歴史的遺産にも恵まれた地域に根ざした、のびのびとした学習を展開している。児童数100名、井上博夫(いのうえ・はくお)校長。

取材/西尾琢郎 撮影/齋藤 浩(スタジオエイブル)
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。