小学校の実践事例
ICTを生かして獲得する"情報"的視点
〜 自ら学ぶ子どもたちのために〜
岡山県・和気郡和気町立佐伯小学校
学校でのICT活用は、ここ数年で大きな広がりを見せつつある。しかし、かつて初期の情報教育がそうだったように、こうした新たな取り組みでは、機器とその利用自体が目的化しやすい点に難しさがある。ICTを、あくまで子どもたちの自主的な学びを引き出す手段としてとらえ、その視点を貫き、生かしている佐伯小を取材させていただいた。
豊かな郷土を
自分の学びで
佐伯小は、各学年1クラスずつの単学級。クラスメイトは全員が幼なじみだが、広大な校区の各所からスクールバスに乗って通う子どもも。そんな学区の中の多様性も、学びのきっかけになっていく。
「この前の授業では、佐伯の古墳や資料館を見学して、それぞれ自分が知りたい疑問や課題を決めましたね。今日はその課題について、自分なりの証拠を見つけて説明してもらいます」
授業は、担任の津田先生のこんな呼びかけからスタートした。なんと、本時の課題は子どもたち自身がおのおの決めたのだというのだ。
佐伯小学校が位置する和気町は、奈良時代末期〜平安時代初期の高級官僚である和気清麻呂(わけのきよまろ)の出身地としても知られる土地柄で、地域には古墳も数多く存在している。
校舎裏山の名を取って「ふなおかタイム」と名付けられた総合的な学習の時間では、このように恵まれた地域の遺産を題材とした取り組みが行われてきた。以前は社会科見学やそれに伴う郷土史についての知識伝達が中心だったが、ここ数年、次第に違った形の取り組みへと変わってきたという。「自分の課題」に取り組む授業が、まさにそれだ。「自ら課題を発見し、その解決に取り組む子ども」は多くの学校で目標に掲げられている子ども像だが、それが実践に裏打ちされている例は決して多くはない。
目を見て問う、
引き出す、ふくらませる
津田先生と木村先生は、それぞれ子どもたち一人ひとりと向き合って、課題を再確認しながら、どんな資料に当たればよいかを対話の中でつかませていく。
「どうして、山田学区には古墳が少なくて、佐伯学区には多いのか」「どうして佐伯には前方後円墳が少なくて、円墳が多いのか」「佐伯の古墳から須恵器(すえき)が出土するのはどうしてか」
子どもたちが自分の課題として取り上げたテーマはさまざまだ。中には同じ前方後円墳に注目しても、「なぜ佐伯には少ないのか」「なぜ佐伯にあるのか」という一見逆に見える課題もあり、子どもたち一人ひとりの課題意識の違いが見えて興味深い。
「今日はその課題を、みなさん自身で解決していってもらうために、先生は特に資料を用意しませんでした。これから教科書や資料集、インターネットなどを使って、自分の課題の答えと、その証拠を見つけてください」と津田先生。教室にはこの実践のスタイルを作り上げてきた木村先生も駆けつけた。
早速作業に取りかかる子どもたち。すでに自分なりの答えを持っている子どもたちも多く、まずはワークシートにその仮説を書き入れて、証拠探しへと資料に当たり始める。津田先生と木村先生の2人は、そんな子どもたち一人ひとりに声を掛け、その課題意識をさまざまの手がかりに結びつけるサポートを進めていく。「地図で見て分かったことを、先生に教えてくれるかな」「山田学区は山が多くて、佐伯学区は平地が多いです」「すると何が違ってくる?」「う〜ん……田んぼが少なくなる……と思います」「なるほど。ところで古墳の時代にはお金がなかったんだよね。その代わりになっていたのは何だったかな」「お米です。……あ! だから佐伯学区の豪族はたくさんの人を働かせることができたのかも」
佐伯小の6年生は13人の単学級。さらに場合によっては木村先生やふるさと教員のサポートが加わる。こうした環境が授業の可能性を広げる。
6年生担任、専門は音楽科。「情報機器には明るくないんですが」と笑うが、持ち前の快活さで、子どもたちとICT活用を進めていく様子は頼もしいの一言。「ICTは、子どもたちの知的好奇心や意欲をかき立てることができます。また、歴史学習で活用することで、多角的な見方ができ、歴史的思考力の高まりを感じています」
8年前、同僚と共同で行った情報教育研究をきっかけに、平成14年度には自ら県の情報教育センターで、デジタルコンテンツを活用した授業実践の研究に取り組む。その後佐伯小に赴任、ICT活用やそれを通じたものの考え方を子どもたちに身に付けさせる取り組みを重ねてきた。「機器操作というスキルと、情報活用というセンスを区別しながら、共に育てていくのが理想です」