中学・高校の実践事例

中野平中学校「ゲーム制作」実践のポイント
信州大学教育学部 情報・技術教育分野 村松浩幸准教授

簡単だが奥が深い実践

村松浩幸准教授

村松浩幸准教授

技術科の新学習指導要領では,ディジタル作品の設計・制作が必修化されます。ディジタル作品といえばプレゼンや動画編集などが一般的ですが,この実践で制作するゲームも立派なディジタル作品です。ゲーム制作は,生徒達の興味・関心を引きつける活動なのですが,操作が難しいため取り組みにくいという側面がありました。

その点ジャストジャンプに搭載の「ソフトデザイナー」は,操作がかなり簡単で取り組みやすい割に、奥が深いという特徴があります。ゲーム設計に,様々な工夫を盛り込むことができるので、生徒のスキルや意欲に応じて取り組めるのです。

実際、生徒の作った作品には,内容や表現手法等,「へぇー」と感心する作品も多くありました。操作や機能に振り回されず,設計・制作・評価・改善のサイクルを回すゲーム制作の学習は,簡単ですが,ものづくりと同じように技術本来の学びとしてデザインできるのではと考えています。

手軽な知的財産学習

ソフトデザイナーで作品を作っている生徒

ソフトデザイナーで作品を作る生徒

一般に知的財産学習と言えば、著作権法の知識習得などがイメージされると思います。こうした知識習得はもちろん重要ですが,さらに重要なのは,著作物を創る側,権利を活用するクリエイター側に立った体験的な知的財産学習です。著作権教育の研究から,著作権の知識伝達だけでは実践力に結びつかない点が指摘されています。

中野平中の実践は,著作権を活用するゲーム制作の学習から,著作権の重要性や意味を生徒達が実感を持って理解できるようにデザインされていました。さらに著作権契約にも踏み込んでいます。書類1枚で簡単ですが,中学段階の知的財産学習として先進的かつ本質的な試みでしょう。こうした活動が、著作権,同時に広義の知的財産である「知恵の情報」の尊重,そして日常の実践化へとつながっていくことが期待されます。

現実社会への橋渡し

ゲーム制作の中では,会社を模した協同学習も行われています。これは現実社会でのコンテンツ開発の疑似体験でもあり,職場に行かない職場体験であるともいえます。協同学習による技術の学びは,他者とかかわる力を育み,技術と社会の関係の理解など,授業を「現実社会へ橋渡し」させる点で重要であると考えます。また,中野平中では,協同学習と個人制作を連続させ,協同の学びを個に返すことも配慮されています。

以上3点から,中野平中の実践は,今後の技術科の「情報に関する技術」の学習について一つの方向性を示してくれていると考えています。



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取材・撮影:西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。