中学・高校編
なりたい自分になるために 3年間で明確な進路意識をはぐくむ
〜 「総合的な学習の時間」をトータルで導く教師の協働〜 熊本県立鹿本高等学校
進路をオープンにし
学習意欲向上をねらう
「看護系」の進路に進みたい生徒たちのグループ。看護系には2種類のグループがあり、1つは対人間、1つは対動物というように細かく分類されている
3年生は、1年間かけて 「未来への架け橋」という単元に取り組む。これは、生徒一人ひとりが自分のこれからの生き方を考えるための活動で、これまでの総合的な学習の時間の集大成にあたる。進路指導であり、キャリア教育でもある。
「看護」 「医療」 「リハビリ」 「建築」 「エンジニア」 「整備士」 「教育」 「公務員」 「芸術」など、希望進路の系統ごとに着席している生徒たち。彼らはここまでに、自分の将来像を描き、進みたい職業について調べ、どうすればその職業に就くことができるのか理解を深めてきた。現在は、さらに情報収集・整理を続けながら、その発表の場としてWebサイトを構築している最中だ。
Webサイトは 「仕事の内容」 「職業適性」 「就職について」 「将来性」 「こうすればなれる」という5つが今のところのコンテンツ。サイトの装飾に凝るのではなく、中身で勝負させるため、あらかじめテンプレートを用意しているのだという。
グループ内発表において 「使える!」と思った情報を、コンテンツごとに書き記す
「中学教師になりたい」と言う生徒が構築するWebサイト。どうして中学なのか、その理由なども知ることができて興味深い。
この日はグループ内での中間発表会。構築中のWebサイトを同じグループのメンバーに見せながら、自らの夢や将来についての発表を行うのだ。
3年生の総合的な学習の時間担当、村田先生が助言する。えもしなかった職業の存在に接し、自分の進む方向が本当にそれでいいのか、違う道を模索すべきか否か、再度自分自身に問うている。
村田先生は語る。
「必ずこの単元で決めた進路に進まなくてはならない、というものではありません。この単元を通じて自分を見つめ直し、自分の将来を真剣に考え、その進路を周囲にオープンにすることで、生徒たちは驚くほど意欲的な姿を見せてくれるようになります。また、大学受験が目標になるのではなく、受験を一つの手段としてとらえられるようになることもメリットですね」。
全員を前にしての発表の様子。希望する進路への熱い思いに、お互い刺激を受けていく。
学校・地域に合った
カリキュラムを
鹿本高校、総学推進部の先生方。気軽に集まってはお茶など飲みながら、和やかに総合的な学習の時間について語り合うのだという。 「お茶飲んで世間話で終わり、なんてこともありますけどね」と笑う赤山先生。確固たるカリキュラムと、それを共有するための学年研修会が総学推進部の原動力となっている。学年研修会は毎週行われ、次週の授業についての説明や模擬授業なども行われる。 「みんなで解決し作り上げる」協働の場だ。
3年間をトータルコーディネートしている鹿本高校の総合的な学習の時間カリキュラム。その大きな特徴は 「らせん」である。そのらせん構造を具体的に説明していこう。
カリキュラムは全体として、生徒が自己のあり方を考えるための構成となっている。(1年生から3年生までのすべての単元は、ページ右下のリンクを参照)
単元を重ねるごとに、少しずつ内容がステップアップし、また、前の単元で学んだことを次の単元で活用する、らせん状のカリキュラムになっていることがお分かりいただけるだろうか。方法知、内容知、自己知、そしてパフォーマンススキルを、何度も何度も繰り返しながら鍛え上げる構成になっているのだ。
研究開発校の指定当時から総合的な学習の時間推進の中心的メンバーであり、今もなお推進部の指導を担う赤山先生は、次のように語ってくれた。
「本校の総合的な学習の時間のカリキュラムは大変優れたものであると自負しています。しかし、カリキュラムとは、その学校・地域に合ったものでなくては効果の薄いものです。このカリキュラムを実践したいと思われる学校があるなら、ぜひ、どんどん修正を加えてその学校に合ったカリキュラムにしていただき、先生方が十分に内容を消化した上で実践してくだされば、と思います」
鹿本高校の生徒の中には、ほかの高校でも同じようなカリキュラムを経ているのだろうと思い、いざ卒業・進学して大学生活を始めたときに、他校から進学してきた生徒との意識・意欲の差に驚く者もいるのだという。生徒たちにとって、鹿本高校の総合的な学習の時間のカリキュラムは、それほどに威力のある学びとなっているのだ。
総合的な学習の時間の
価値を共有し協働する
鹿本高校の総合的な学習の時間は、必ずTT(チームティーチング)で実施することになっている。総学推進部の先生方は次のように話す。
「『総合的な学習の時間でこれだけの成果がある』ということを、すでに学校全体で共有しているので、私たちもTTを行いやすいことは確かですね。全教職員の理解と協力なしに、このカリキュラムは成立しません」
知識や技術ばかりを教えるのではなく、生徒たちが自ら考え、動くことの大切さ。その価値を教職員が共有し、また教職員同士が絶えず学び合い、高め合っているからこそ、鹿本高校の総合的な学習の時間はきれいにらせんを描き、生徒たちを伸ばしていけるのだろう。
鹿本高校のこのすばらしいカリキュラム作成に関しては、1人のスーパー先生の力に寄るところが大きかったと言う。しかし、その先生の異動後も、教師集団の協働によって支えられ、守られ、さらに発展し続けている。これこそが鹿本高校の力だ。
生徒たちの主体性の芽吹きを 「待つ」ときには忍耐も強いられる。しかし、上から強引に持ち上げるのではなく、下から支え、助言・支援し、評価することで、彼らは爆発的な力を発揮する。この取材で、その著しい成長の片鱗を見ることができた。
>>鹿本高等学校「総合的な学習の時間」
カリキュラムはこちら!
熊本県北部、山鹿灯籠や数々の名湯で知られる山鹿市に位置する鹿本高校。 「自主自律」 「質実剛健」 「師弟同行」の3つを目標に掲げる。現在、校舎は耐震補強工事のため半分ほどグレーの幕に覆われているが、その姿はまるで羽化直前のサナギのようで、これから大きく羽ばたこうとしている生徒たちの姿と重なる。生徒数932名。加藤修(かとう・おさむ)校長。