中学・高校の実践事例

選択国語で活用する表現のキャンバスとしてのコンピュータ 
〜情報の収集や取捨選択を経た「書く力」の育成〜  埼玉県神川町立神川中学校

小中連携で挑む
情報活用力向上

不調のネットワークプリンタと生徒

この日は残念ながらネットワークプリンタが不調。生徒の注目作品は、先生による指名で紹介されることになった。こうした機器運用の安定化は、多くの学校で感じている課題ではないだろうか。

この日の授業では、生徒たちがひととおり完成させたパンフレットをプリントアウトし、それを互いに観賞し合うことが予定されていたが、プリンタの不調から断念。先生があらかじめ注目していた生徒の作品を数点取り上げて紹介し、その表現のどこがすぐれていたのか、別の生徒に問う形で授業が締めくくられた。今後はこうした第三者の評価などを通じて推敲を進め、その作品をパンフレットの形にまとめ上げていくことになる。

授業が終わると、研究授業としての本時について、参加の各先生が意見を述べ合う研究協議が行われた。

まず驚かされたのが、この研究会には中学校だけでなく、小学校の先生方も積極的に参加されていたことだ。決して大きくない神川町という自治体ゆえに可能な面もあるにせよ、情報教育をテーマにしたこうした研究会が、小中連携の下に進められていることは心強い限り。情報教育をめぐる状況は時々刻々変化を続けており、小中学校に限らず、垂直的な連携の下、時宜を得た指導が継続的に行われることが必須だからだ。

この研究協議でも、小中学校それぞれの先生から、各校の指導の実状とその間のズレ、今後の留意点などについての発言が相次ぐ。パソコンやインターネット、デジタルカメラといったIT環境を持つ家庭とそうでない家庭との間で生じる子どものリテラシーの差について、学校がこれをどうケアすべきかなどが論じられた。すぐに答えが弾き出せない問題も、課題として認識し、これに取り組む意思が感じられたことには、強い印象が残った。

情報化時代と
国語科のこれから

授業中の増田先生と生徒

研究協議とそれに続く指導主事による指導講評の後、増田先生とお話する機会を得た。

今回の授業で 「紹介文」とその集成であるパンフレットがテーマとされたのはなぜなのだろうか。

「インターネットの普及以降、個人発の情報が届く範囲が、格段に広がっていますよね。そうした中で、何かを不特定多数の人たちに紹介する、といった場面もまた多くなるでしょう。そこで、テーマを決め、そのテーマについての情報を集め、それを吟味した上で自分の意見をしっかりとまとめ、それを形にするというプロセスを、紹介文の書き方という学習に託してみたのです」

増田先生の見るところ、最近の生徒たちは、携帯電話のメールで意思疎通する機会が増え、それに伴って主語-述語の対応や、適切な接続詞を選んで使うといった能力が衰えているという。今求められているのは、論理的な思考を支えるこうした力を育てること。そう感じたことがこの実践の原点だった。

今後はさらに、1対多のコミュニケーションから、1対1のコミュニケーションへと授業を進めていきたいと増田先生。メールを使い、面識のない他校の生徒たちと、文字のみを通じていかに意思疎通を図ることができるか、そうした能力を育てていきたいとのこと。

情報化時代、ネット時代のコミュニケーションと、その中で求められる表現力について国語教育が果たせる役割は何か。増田先生の挑戦はこれからも続いていくことだろう。

取り組みの流れ

小川先生増田忠司(ますだ・ただし)先生

神川中への着任は平成17年春のこと。同校の整った施設環境の中で、積極的な授業展開を進めている。コンピュータの活用については、それによる生徒の意欲の高まりを足場にしつつ、今日の社会で求められる表現力の追求・育成に力を注いでいる。

◆埼玉県神川町立神川中学校

神川町内に2校ある中学校のひとつで、平成14〜16年度には文部科学省の 「学力向上フロンティアスクール」
事業の指定を受けるなど、先進的な取り組みを行ってきた。
北島寿和(きたじま・としかず)校長。生徒数477名。

取材:西尾琢郎/撮影:齋藤浩・西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。