中学・高校の実践事例

選択国語で活用する表現のキャンバスとしてのコンピュータ 
〜情報の収集や取捨選択を経た「書く力」の育成〜 埼玉県神川町立神川中学校

神川町立神川中学校

埼玉県北西部、群馬県に境を接するところに位置する神川町。平成18年1月1日をもってかつての神泉村と合併し 「新・神川町」としてのスタートを切ったばかりだ。この町の新しい門出を期に、自分たちの町をもっと知ってもらうためのパンフレットを作ろうという取り組みが、中学校の選択国語の授業を舞台に進められていた。

「書くこと」の本質とは

授業冒頭、教育委員会から送られたというパンフレット制作依頼の文書を示す増田先生

授業冒頭、教育委員会から送られたというパンフレット制作依頼の文書を示す増田先生。生徒たちもわが町の紹介に意欲満々だ。

今回取材にお邪魔したのは、合併後間もない埼玉県神川町の神川中学校。同校は、文部科学省の 「学力向上フロンティアスクール」事業の指定を受けるなど、これまでも先進的な取り組みで知られてきた。また、無線LAN設備が整えられ、校内のどの教室でもネットワークを活用した授業が可能であるなど、情報機器の整備においても高い水準にあることがうかがえる。

この日は神川町情報教育授業研究会の研究授業として、増田先生による2年生の選択国語の授業が行われることになっており、私たちもその授業を取材させていただくことになった。

授業は 「新神川町のパンフレットを作ろう!」と題して、合併した新しいわが町を外部の人たちに知ってもらうための紹介文を書こうというもの。

 

神川中のコンピュータ室

160人の2年生のうち、約5分の1の30人が履修する選択国語。神川中のコンピュータ室は1人1台のパソコン利用を十二分に保証する環境だ。

「書く力」の育成を目的としながら、それを支える能力として、非言語情報を含めたさまざまな情報を集め、読み解くことをハッキリと位置づけていることが注目される。 「書く」ということをそれだけで取り上げるのではなく、より立体的な力の上に立ったものとしてとらえ、それらの力を総合的に高めていこうという増田先生の実践には、私たちだけでなく、この日集まった神川町内各校の先生方の期待も非常に高い。

動機を与えて
意欲を引き出す

一太郎での文書作成もグングンこなす生徒たち

一太郎での文書作成もグングンこなす生徒たち。コンピュータの活用が積極的な学びの姿勢を引き出しているという。

生徒たちの紹介文作成へのアプローチはさまざま

自らの足で写真取材に回った生徒や、書籍やインターネットをフルに活用して豊かな情報を取り入れようとする生徒など、紹介文作成へのアプローチはさまざまだ。

コンピュータ室へ足を踏み入れると、そこにはすでに選択国語を受講する2年生がおのおの席に着き、授業の開始を待っていた。研究授業ということで、各校の情報担当の先生方や、櫻井堯教育長をはじめとする教育委員会の先生方の姿も見えるが、生徒たちに浮き足だった様子はなく、落ち着いた雰囲気が印象的だ。

そして授業がスタートした。教壇の増田先生は、まず、ここまでの取り組みを、生徒たち自身に語らせながら振り返る。

綿密に練り上げられ、それに沿った指導が実践されてきたワークシートは目を見はる充実ぶり。紹介文の書き方について、学習のツボを押さえた増田先生の問いに対して、生徒たちはよどみなく答えていった。

続いて、取り組みの出発点として 「パンフレット作り」の目的を再確認する。

町の教育長から届いたビデオメッセージを見、パンフレット作成依頼書を読み上げる増田先生。この日は研究授業ということで、当の教育長自身が教室にいらしたことには触れずじまいだったのが少しもったいなく感じられたが、生徒たちの意欲は満々だ。

一人ひとりを
見守り伸ばす

机間指導に回る増田先生

生徒たちが紹介文の作成に入ると、こまめに机間指導に回る増田先生。そうして把握した生徒一人ひとりの状況はバインダーに素速く記録され、授業中の指名などに早速活用されていく。

そしてパンフレット作りの作業が始まった。使用するソフトは一太郎だ。

すでに決まっている生徒一人ひとりの分担テーマに沿って、ある生徒は地元輩出の著名人について、またある生徒は観光名所や特産品について、一心不乱に文章を打ち込んでいく。あわせてインターネットブラウザの画面を開き、その都度情報の確認をしながら書き進める生徒もあれば、休日に自宅のデジカメを持って取材に出かけた折の画像素材を持ち込んでグングン作業を進める生徒の姿も。
「パソコンを使うことで、ハッキリ変わるのが生徒の意欲ですね」と増田先生。授業時間に関わりなく、生徒の側から 「もっとやらせてください」とせがまれることに、確かな手応えを感じているようだ。

増田先生は、生徒たちが作業に励む間も、休みなくその様子を見て歩く。こうした作業では、生徒たちのSOSが、いつ、どこから発信されるか分からないからだ。そしてそのとき、先生の小脇には大きなバインダーが抱えられている。そこには生徒たちの名前が並び、作業の進捗度合いや課題などが詳細に書き込まれていた。

作業の折々に、先生からは見習うべき生徒の取り組みが全員に向けて紹介され、それについての意見が求められたが、その際の材料になっているのが、あのバインダーなのだった。全員で共有すべき知恵は何か、それに真っ先に気づいてほしい生徒は誰なのか。こまめな巡視と指導を通じてそれを的確に把握し、その場で教室全体の学びにフィードバックしていく。増田先生流の方法論がそこにあった。