中学・高校の実践事例

手を動かさなきゃ始まらない!ものづくりでオンになる心のスイッチ 
〜必修技術でロボコンに挑戦〜三重大学教育学部附属中学校

三重大学教育学部附属中学校大学、高専での取り組みから始まり、広まったロボコン。その波は今、小中学校にも確実に広まりつつある。多くの中学校が授業時間の制約などを理由に選択技術をロボコンの取り組みにあてている中、三重大学附属中学校では、あえて必修技術の時間を使ったロボコンへの挑戦を進めている。限られた時間の中で、すべての生徒が取り組むロボコン。その現場を見るべく、我々は三重県へと向かった。

中学ロボコン 世界へ!

教育実習生の能海先生が教壇に立ったこの日の授業

教育実習生の能海先生が教壇に立ったこの日の授業。生徒たちがロボットを見つめる視線は熱い。

『愛・地球博』の開催に沸いたこの夏、その会場ではこんなイベントが開催されていた。『ロボフェスタ2005 in 愛・地球博』だ。

そこでは『国際Jr.ロボコン in 三重』の成果として生み出された、中学生たちの手によるロボットが多くの人たちに披露された。そのロボットたちと、そこに込められた子どもたちの熱い想い、そして独創的なアイデアは来場者を驚かせた。

国際Jr.ロボコンは、2003年に青森県八戸市で初めて開催された。日本だけでなく各国の少年少女の参加と共同作業により、独創的なロボット作りを競うものとして非常にユニークなイベントだ。三重県鈴鹿市で開催された今年は、中国、韓国、タイ、アメリカからの参加者を加えた60名の中学生が、それぞれ混成チームを組んでロボット作りに取り組んだ。

大学生や高専生によるロボコンが年々競技性を強め、国際大会ともなれば国別対抗戦の様相を呈しているのに対して、この国際Jr.ロボコンをはじめとした中学ロボコンでは、協同作業の中で子どもたちが互いに刺激し合うことから生み出されるものをより重視していると言えるだろう。

競技という枠組みが与える印象とは対照的に、この国際Jr.ロボコンは国の違いを超えた 「協働」がいかに大きなものを生み出し、子どもたちに何を残すかを物語っているようだ。そしてその取り組みは、今、世界に広がろうとしている。

知的財産権とその知識を生かせる学びを求めて

ロボフェスタ2005 in 愛・地球博

万博の会場を沸かせた『ロボフェスタ2005 in 愛・地球博』は、その成果を生み出した『国際Jr.ロボコン in 三重』の取り組みの上に成り立つものだった。

今回の取材先は、こうした中学ロボコンの輪に加わって間もない三重大学教育学部附属中学校。技術担当の樋口先生がこの学校に着任したのは昨年春のことだ。文部科学省の支援の下、全学的な知的財産権教育に取り組んでいる三重大学にあって、樋口先生もその実践に頭をひねることになった。

昨今、実社会でも注目を集める機会の増えている知的財産権だが、これを子どもたちに理解させることは容易ではない。いわゆる著作権や肖像権のように 「作った人の気持ちを考える」といった直感的な理解を足場にこれを学ぼうとすると、いささか勝手が違うことになる。

そもそも知的財産権とは、産業社会における技術開発を促進することを最大の目的としている。それにたずさわる者の権利を保護しながらも、そのアイデアの公開、共有、改良を図っていこうとするものなのだ。

そのため、ものづくりというプロセス全体を見通す視点なしに、その断片のみを理解することが難しいものだということができる。

特許体験システム

特許体験システムは、生徒たちに知的財産権を体験的に学ぶ機会を与えると共に、より創造的なロボット作りを可能にする。

知的財産権教育に一体どのように取り組めばいいのか。そんな悩みを抱いていた樋口先生は、時を同じくして三重大学に助教授として着任した村松先生と出会った。

村松先生と言えば、長野県の中学校教諭としてロボコンに取り組み、その中で 「校内特許システム」を考案、その実現に努めてきたことで知られている。自らアイデアを生み出し、また友だちのアイデアに触発され、競い合って伸びていくというロボコンの取り組みの中でこそ、生きた知的財産権を学ぶことができるというのが村松先生の主張だ。

この出会いを通じて、樋口先生は自校でロボコン実践に取り組むことを決意した。それも、知的財産権という普遍的なテーマを念頭に置いて、必修技術の時間でこれを行うことにしたのだった。

教育実習生も燃える ロボコン授業

特許とロボット作りにどんな関係があるか説明する

授業の冒頭、能海先生は特許とそれがロボット作りにどんな関係があるのかを解説した。

三重大附属中のロボコンへの取り組みは、3年生の必修技術で行われている。取材当日の授業はその半ばにあたるものだが、教壇に立ったのは樋口先生ではなく、教育実習生の能海先生。実は、能海先生は三重大の村松研究室の学生であり、ロボコン実践にもこれまでさまざまな形で接してきた経緯がある。

生徒に呼びかける姿も初々しい能海先生だが、生徒たちの気持ちは、先生やその話す内容よりも、すでにロボット作りの作業に飛んでいるかのようだ。

それでも、漫然と作業を開始するのではなく、先々になって生きてくる 「種まき」を怠らないのが直伝の樋口流といったところ。この日の授業はまさに 「特許体験システム」についての説明からスタートした。

 

高速なジェルジェットプリンターがピンチを救う

この日はネットワークの不調で特許体験システムへの接続が不安定となるトラブルが発生。高速なジェルジェットプリンターがピンチを救った。

特許体験システムとは、村松先生考案の校内特許システムを基に、これを他校とインターネットで結ぶとともに、自由な言葉で特許内容を検索できるデータベースと組み合わせたもの。

類似の特許が容易に検索できることから、重複した申請や認可を防ぎ、同時に、優れたアイデアを適宜参考にしながら自分たちのロボット作りに生かしていくことができる。このデータベース構築と検索には、ジャストシステムのConcept Baseテクノロジーが生かされている。

能海先生は、そもそも特許とは何か、それが今取り組んでいるロボット作りとどんなふうに結びつくのかを、生徒たちの先輩にあたる昨年の3年生が生み出したアイデアと実際のロボットを見せることで訴えた。さらに、特許体験システムの操作画面をプロジェクターで投影しようと試みるも、こちらはネットワークの不調で断念。しかし、その操作画面は別のパソコンから素速くプリントアウトされて生徒に配布され、説明の助けとなった。これは設置後間もない高速なジェルジェットプリンターの威力だ。

教壇に立つという上ではまだ卵の段階にある能海先生だが、ロボット作りにかける思いは熱い。それが目に見えなくとも生徒たちに伝わっていくのを感じる。

今はまだ耳からの知識に過ぎない知的財産権と特許だが、これからのロボット作りの中で、生徒たちはこの日の授業内容を幾度となく思い返すことになるだろう。