中学・高校の実践事例

「科学を学ぶ」気持ちをカタチに知識を体系化して表現する 
〜自ら選んだテーマで、課題研究レポートをまとめる〜 栃木県・県立宇都宮高等学校

質疑応答と先生のサポートが生みだす 「もっと知りたい気持ち」

発表後、聞き手のクラスメイトから活発な質問が寄せられた

それぞれ発表が終わるごとに、聞き手のクラスメイトたちからは、活発な質問が寄せられた。
   「植物は電流で感電することはないんですか?」
   「緑の光に対して、普通の光を比較対象にしたのはどうしてですか?」
  などなど、クラスメイトの発表に刺激された 「知りたい気持ち」が、質問としてぶつけられていく。これが発表者にもさらなる刺激となって 「もっと調べてみよう」 「別の条件で実験してみよう」などといった意欲の表明につながっていくのだ。

また、発表や質問の中で出された疑問には、先生からもタイムリーな補足解説が行われる。

「電力会社では、高圧線の周囲で生物への影響がないかどうかの調査を行っています。データも公開されているはずです」
   「アメリカザリガニは、もともとウシガエルのエサとして輸入されたものなんですよ」

こうした解説も、生徒が正にそのとき 「知りたい」と感じていることだけに、どんどん生徒たちに吸収されていく様子が手に取るように感じられた。

テーマとの出会いをドラマタッチで語るユニークな発表も

「自分で選んだテーマを自分で掘り下げ、発表を通じてクラスメイトと刺激しあうことで、自分が目指すものがはっきりしてくる生徒が多いですね」と敦見先生。

「レポートをまとめる過程で、断片的だった知識が体系化されていきます。さらにそれを発表し、質疑応答を繰り返す中で本当の力が育っていくんです」

学ぶことは決して受け身の行為ではない。自ら進んで学ぶ機会を作ることがいかに生徒の力を伸ばしていくか、ハッキリと見て取れる実践だった。

パソコン活用の意義とは

敦見和徳先生

実践の流れ

授業終了後、改めて敦見先生にお話を伺った。

―今回のレポートは、すべてパソコンを使ってまとめたものを提出するようにされたそうですね。

  「そうです。課題研究に取り組み始めた当初は、パソコンでも手書きでもいいことになっていたのですが、現在ではパソコンでの提出に限った形ですね」

―それはどうしてでしょうか?

「生徒の中には、パソコンではなく手書きを希望するものもいます。それはそれでいいのですが、現在パソコンでの提出に限っているのには理由があります。 レポートは提出したら終わりではなくて、こうした発表を通じて、もっと手直ししたいとか、指導を通じてよりよくまとめ直すという再検討の過程が欠かせません。そのとき容易に修正・訂正のできるパソコンのデータには大きなメリットがあるんです」

ーなるほど。今日の発表にはノートパソコンとプロジェクターが使われていましたが、そういう形の発表が簡単にできるところもパソコンでのレポート制作のメリットなんでしょうね。

「その通りです。なんでもかんでもITを使えばいいとは思いませんが、そのメリットがハッキリと出るように使うことが大切でしょうね」

ー逆にデメリットはありますか?

「もちろん、いいことばかりではありません。安直なコピー&ペーストに走ったり、視覚や聴覚上の効果ばかりにとらわれてしまう危険は常にあります。特にコピーのしやすさから犯しがちな著作権の侵害については、 1年生の段階から生徒たちへの指導にも力を入れるようにしています」

ーパソコンを使った表現についてはいかがでしょうか。

「私たちが育ってきた時代とは違って、生徒たちは早くからパソコンなどを使ったグラフィカルな表現に親しんでいます。ですから、いたずらに派手な表現におぼれてしまうようなことは少ないようですね」

ー道具として使いこなすことができれば、多くのメリットが生かせるわけですね。

「はい。パソコンを使うことは目標ではなく、あくまで手段ですが、それを利用することで、生徒たちの意欲が高まり、また表現や発表を通じて生徒同士が刺激しあうことで学ぶ力が伸びていきます。 これからもそうした場を作っていきたいですね」


◆栃木県立宇都宮高等学校

栃木県屈指の進学校である同校では、平成15年度からSSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業の研究開発学校としての取り組みを始めている。 「教科書で学ぶ」ことにしばられない、自由な 「学び」の実現に向けた取り組みは現在2年目を迎え、着実な進展を見せている。小林正弘校長。

取材・文/西尾琢郎 撮影/齊藤浩
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。