中学・高校の実践事例
「科学を学ぶ」気持ちをカタチに知識を体系化して表現する
〜自ら選んだテーマで、課題研究レポートをまとめる〜
栃木県・県立宇都宮高等学校
宇都宮高校は、文部科学省のSSH(スーパーサイエンスハイスクール)事業の指定校だ。取材にお邪魔したのは、2年生の選択生物科の授業。学校選択時から科学の学習が強く意識されている同校の中で、特に生物科に関心を抱く生徒が集まった教室には、独特の 「学ぶ意欲」を感じさせる空気が満ちていた。
「学び」の発見
SSH指定校である宇都宮高校。しかし実際には文系志望の生徒も多く、また理系を志望する生徒には物理・化学を選択する傾向が強いという。文系志望の生徒が選択することも多い生物科では、授業を深めていく上でジレンマがあると生物科教諭の敦見先生は話してくれた。
そこで同校では、平成12年から、2年生の生物選択者を対象に、課題研究を本格実施した。これは生徒自らがテーマを設定し、それについて行った研究の成果をレポートとして提出するもの。国公立大学の二次試験などに多い、論述試験で求められる高い応用力を身に付けることを狙った取り組みだ。
平常の授業時間内で課題研究のレポート作成を行っていくことは難しいため、この実践では夏休みが活用されている。
夏休み直前の授業において、図書館などで生物学関連の書籍に触れさせ、適宜助言を行う指導がそのスタートだ。生徒たちはその中から思い思いのテーマを見出し、夏休みを利用してその研究にあたることになる。
「テーマは、生物学に関わることなら原則なんでもいいことにしてあります。自分で関心を持ったことについての研究ですから、取り組みへの意欲も通常の授業とはまったく違ってきますね」と敦見先生。
今日の授業は、夏休み後に提出されたレポートのいくつかを生徒自身が発表するというもの。これは期待できそうだ。
発表から伝わる課題への自分流アプローチ
選択生物の2年生は20名弱。今日はその内の数名がワープロソフト「一太郎2004」などでまとめたレポートを発表する。
トップバッターは山本くん。テーマは電流を流した土が植物の生育に与える影響についての研究だ。
電流を流した土、カルシウムを加えた土、そして何もしていない土の3つの環境で育てた植物の成長を記録し比較考察していったレポートは、その実験方法や考察に、自分で工夫した跡が随所に感じられるものだった。
引き続いての安藤くんによる 「緑色光による植物成長の鈍化」、中村くんの 「スーパーカラフルザリガニ」の両発表もそれぞれ実験に基づいたもの。
安藤くんのテーマ設定のきっかけは、授業の中で 「植物は緑色の光を吸収しない」ことを知ったため。 「それなら、緑色の光だけを当てたら、植物はどうなるんだろう?」そんな疑問を実験で確かめたいという気持ちが安藤くんを動かしたという。
一方の中村くんは 「ザリガニはサバを食べると青くなる」という話を聞き、その理由に関心を持ったことからスタート。聞いた話をただ後追いするような実験ではなく、まずは耳にしたことを裏打ちするための 「調べ」を行った。
その結果、サバの話は、ザリガニにある種の栄養素を欠乏させることで発色を促す方法であることが分かったという。 そこで中村くんは自分なりのアプローチで、ザリガニを不健康な状態に置かずに体色を青くすることに挑戦。その過程がいきいきと表現された発表だった。真っ青なザリガニのデジカメ写真には、級友たちの視線もくぎ付けだ。
この日最後の発表となった小森くんの研究は 「生物大進化」。こちらはインターネットなどを駆使した、徹底的な 「調べ」に重きを置いた研究だ。ネット上の情報に多くを頼っているとは言え、単なる引き写しではなく、自分なりにそれらをかみくだき、ひとつのレポートにまとめ上げた様子がうかがえた。
それぞれ自分で選んだ課題だけに、取り組みは積極的で、また、ものまねではない自分の方法でテーマに迫ろうとしていた姿勢が印象的な発表であった。研究成果をレポートにまとめる上で 「一太郎2004」での文字や画像の柔軟な操作性がごく自然に活用されており、そのことも 「自分らしさ」の表現に結びついていたようだ。