中学・高校の実践事例

「体験」をキーワードに 情報活用能力の向上を目指す 
〜ウイルスメール、チェーンメールを体験して学ぶ〜 新潟県・上越教育大学附属中学校

ショックを受ける生徒たち

「あれ? 画面が……?」

「先生! 大変です! パソコンが変に!!!」

すぐさま教室はハチの巣をつついたような騒ぎに。松風先生はその声を制して、ゆっくりと説明を始めた。

「実は、みなさんに送ったプログラムは、コンピュータウイルスを体験してもらうためのものだったんです」

「ええ〜っ!?」と生徒たち。

「今日のプログラムは体験のためのものだから、一時的に画面がおかしくなるだけだったけれど、本物のウイルスだったら、大切なデータが永久に読めなくなったり、 個人の情報が勝手に外に流されたりしてしまうこともあるんですよ」

またも体験をベースに、メールに潜む危険について知らされた生徒たち。 不審な添付ファイルは絶対に開いてはいけない。それを身をもって理解した瞬間だった。

驚きのチェーンメール体験

ここで教壇上には岡村先生が登場。今度はテキストのみの軽いメールをクラス全員に送信する。

「軽〜いメールだから、受信もラクラクだよね。それじゃ、内容をみんなで読んでみよう」
そこには生徒たちにもおなじみの先生の名前で、自宅で飼っているネコが5匹もの子猫を産んで困っていることと、その引き取り手を探すため、メールを5人以上に転送してほしいというお願いが切々と記されていた。

「先生の飼っているネコが産んだ5匹の子猫、急がないと大変なことになってしまうね。メールに書かれている 通り、急いで5人にこのメールを転送してください」

生徒たちは、リアルなメール文面の勢いに背中を押されるかのようにメール転送を進めていく。

「なんだか、やたらとメールが来るよ」

生徒たちの間からそんな声が上がった。チェーンメールがクラスを取り巻きはじめたのだ。

「今、みんなに何通のメールが届きましたか? 2通? 3通? 5通の人もいるね。10通以上の人もいる!」
次々に手を上げるクラスメイトを見回して、目を見張る生徒たち。

「これがチェーンメールです。今は限られた人数と規模でやっただけだけれど、これが世の中に広まったら、どんなことになるか想像できますか?」
  メールを受け取る立場に気持ちを転じて、考えを巡らせる様子が生徒たちの表情からも伝わってくる。

「行き交うメールの数もさることながら、こういったメールのほとんどは、その内容がウソやデマで、誤った情報や印象を広げてしまうものであることにも注意が必要です」 という岡村先生の言葉に、また深くうなずく生徒たち。

一歩一歩積み上げてきた体験が、生徒たちの中に根を下ろすと共に、それを土台に、新しい出来事に出会ったときその本質に 「気づく」力を育んでいることが、見ている記者にも伝わってきた。また、そこから生まれる理解には、机上での学習とは異なる 「行動につながる力」が備わっているように感じられた。 思わず友達のパソコン画面をのぞき込む

生まれた余力でその先へ

授業の締めくくりはアンケートで

最後に、「つたわるねっとTeen's@フレンド」のアンケート機能を使って、今日の授業についてのアンケートが行われた。
  添付ファイル付きメールとHTML、テキストの使い分けや、ウイルスメールの危険性、そしてチェーンメールをはじめとする迷惑メールについて、いずれも多くの生徒が 「よく理解できた」と回答する一方、多種多様な迷惑メールについてもっと勉強したい、などといった具体的な要望が寄せられる。
  こうした振り返りは、生徒たち自身、自分が学んだ内容を再確認する効果と共に、先生方にとっても、日々の授業を改善するための貴重な材料だ。

「こうしたアンケートが簡単に取れるようになったことで、今回足りなかった部分は次回の授業で、といったスピーディな授業改善ができるようになりました」と松風先生。

「ジャストジャンプ2@フレンドの導入以来、パソコンやインターネットについての体験的な学習が積極的に行えるようになりました。今まではメール実習ひとつとっても、その環境を整えるのが大変で、 授業では理論をおさえることが中心でした。それが手軽に実施できるだけでなく、今日使ったおみくじのように、すぐに使えるテンプレートがあるのもうれしいですね。今後は著作権に関するテンプレートなども活用したいと考えています」

「パソコン環境の準備などに割く時間が減った分、より体験や実習を増やしたり、指導を深めていくことができます。今回は岡村先生にチェーンメールの実例を作ってもらいましたが、まさにそういった余力が生まれてくるわけです」

学校でのIT活用において、先生方の負担はまだまだ大きい。そうした中、IT本来のメリットである効率化が授業の深化・進化に役立つことを目の当たりにしたこの日の取材であった。

◆上越教育大学附属中学校

国立上越教育大学に附属するこの中学校は、新潟県上越市の高田城址公園内・旧高田城二の丸跡に位置している。豊かな緑と古城の堀とに囲まれた恵まれた環境が魅力だ。平成16〜18年の文部科学省研究開発学校指定を受けている。田中博校長。生徒数348名。

取材/西尾琢郎 撮影/齊藤浩・西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。