中学・高校の実践事例

「体験」をキーワードに 情報活用能力の向上を目指す 
〜ウイルスメール、チェーンメールを体験して学ぶ〜 新潟県・上越教育大学附属中学校

上越教育大学附属中学校

上越教育大学附属中学校では、文部科学省の研究開発学校指定を受け、教科の枠組みを再編した新しい教育課程の開発を進めている。 この日取材にお邪魔したのは、そうした新科目の一つで、総合的な学習の時間を軸に国語科と技術・家庭科とを組み合わせた 「情報活用科」の授業だ。 この新しい実践とそのねらいを見ていこう。

教科の枠組みを超えて

上越教育大学附属中学校では、平成16年度からの3年間に渡り、文部科学省の研究開発学校指定の下での取り組みが進められている。 そのテーマは 「総合的な学習の時間と教科の枠組みを再編した新たな教育課程の研究開発」というものだ。

比較的歴史が浅く、柔軟なテーマの設定が可能な総合的な学習の時間を軸にしながら、従来からの教科の枠組みにも合わせて手を入れることで、より今日的なテーマに適応し、生徒たちの 「知りたい」気持ちにフィットしたカリキュラムの実現を目指した取り組みだ。総合的な学習の時間的なアプローチを基に、既存の教科の、いわば学際的な領域を新しい教科として形にするという試みは、ユニークかつ魅力的なもの。多くの 「新教科」が試みられているが、そのひとつが、この日お邪魔をした 「情報活用科」だ。

手始めはクラス内の自由なメール交換

情報活用科は、技術・家庭科における 「情報とコンピュータ」と、国語科における情報の伝え方といった要素を組み合わせたものとして位置づけられている。プレゼンテーションや広告などを扱いながら、情報モラルや メディアリテラシーといった情報活用能力の向上を目指している。実際の時間数にはこれら両科目からそれぞれ数時間と、総合的な学習の時間からの配分があてられた。

実際の授業は技術の松風嘉男先生と国語の岡村範雄先生によるチームティーチングで行われる。 「技術・家庭科の枠内ですとパソコンの操作だけで終わってしまいがちな授業が、情報活用科という形をとることで、そこで何ができ、どんな可能性や危険があるのか といった点にまで踏み込んでいけるようになります。ネット上で実際にやり取りされるような臨場感のある表現を子どもたちに体験させる上でも、岡村先生の力が欠かせません」と松風先生。
  一方の岡村先生も 「私にはパソコンの技術面がよく分からないので、パソコン上での表現やその受け止め方についても、情緒的な話に終わりがちです。それが松風先生と一緒にやらせてもらうことで、しっかりと裏打ちされていくように感じています」と話してくれた。

メール送信の基礎をおさらい

実践の流れ1〜3実践の流れ4〜5

同校では、1年生ではメールの仕組みやプレゼンテーションの基礎を、3年生ではホームページによる情報発信を、3年生では動画の制作加工などマルチメディア表現についての指導を行っている。 今回お邪魔したのは1年生の授業。メールについて取り上げる授業はこれが4時間目とのことだ。

授業は生徒一人ひとりに与えられているアカウントで「ジャストジャンプ2@フレンド」のグループウェア「つたわるねっとTeen's@フレンド」 にログインすることからスタートした。 まずは、これまでの授業のおさらいから。前回学んだ 「署名」について振り返り、それを作成したメールに自動的に付け加える機能について確認。メールという顔のないコミュニケーションの中で 「自分」を意識し、責任ある表現をすることにつながる署名という行為について心が配られていることを感じる。

徒たちのメール作成画面をのぞいてみると、その多くがカラフルなHTMLメールだ。

HTMLメールを書く生徒

「前回の授業の時のアンケートでは、みなさんの内の75% がHTMLの方が好きだと答えていましたね。今日これからの先生の話を聞いた上で、それがどうなっていくかな」
と松風先生。引き続き、これもすでに体験している、メールへのファイルの添付を実行。

「大きなファイルをいくつも添付していくと、メールのマークの顔が赤くなって、怒り出します。そうい大きなファイルを添付した時の、送信スピードなどにも注意してみてください」
  先生の言葉を受けて、生徒たちはファイル添付に挑戦していった。

受信者の立場に立って添付ファイルを学ぶ

一連のおさらいができたところで、いよいよ本題だ。
   「さあ、先ほどみんながメールのやりとりをしている間に、先生がみなさん全員にすごく巨大なメールを送信しました。全員に送信し終わるのにもものすごい時間がかかっています。……やっと終わったかな。 それでは受信してみてください」

松風先生が送った重量級メール

松風先生の指示で画面に向き合う生徒たち。すぐさま教室のあちこちから声が上がる。
   「うわっ! 重いよ〜」
   「先生、何コレ〜?」
  添付ファイルの大きさのため、メールの受信確認ひとつにも時間がかかることに驚く生徒たち。こうした体験が 「受け手の大変さ」を実感として刻み込む。

「みなさんに、今日の運勢を占ってもらえるようにおみくじプログラムを添付したメールを送ったんです」

「ここでみんなに考えて欲しいのは、添付ファイルを付けたメールには、HTMLとテキストのどちらが向いているかということです。 HTMLには、背景とかイラストとか、最初からいろんな要素が入っているのでデータが重いですね。そこに添付ファイルが加わるとどうなるかな」

たった今体感したばかりの 「重いメール」のストレスから、生徒たちの思考が動き始めた。


タイムリーでユーモラスな指導

「もっと重くなるので大変です」

そういうときはテキストメールの方がいいと思います」

「そうだね。だから先生は、メールにファイルを添付するときは、テキストメールの方をオススメします。テキストとHTML、選ぶのはみんなだけれど、こういったことも考えてメールを使ってください」

松風先生の言葉にうなずく生徒たち。そして体験はさらに続く。

「さて、今送ったおみくじプログラムですが、添付ファイルの保存の仕方も前回やったよね。早速保存したら、ダブルクリックして実行してみてください」

あちこちから、占い結果を報告し合う歓声が上がる。
  しかし……。