小学校の実践事例
おいしく食べる、楽しく食べる キーワードは早寝・早起き・朝ごはん
〜 「食」を通じてはぐくむ、健全なる心と体〜
山口県・萩市立椿東小学校
人間が生きるための基本であり、最も大切で身近なもの、それが 「食」だ。心身の健康も、確かな学びも、豊かな人間性も、健全な 「食」という大前提がなければ成り立たない。しかし今、その大前提が揺らいでいる。学校という学びの場で、 「食」の実態に真正面から向き合っている椿東小を取材した。
朝ごはん
食べていますか?
給食時、栄養教諭の野村先生は各クラスを回り、子どもたちの実態把握に努める。
「今日、朝ごはんは食べましたか?」
椿東小の栄養教諭、野村先生が我々取材スタッフにそう問いかける。スタッフの1人が思わずうつむく。
2006年5月に厚生労働省が発表した 「平成16年国民健康・栄養調査結果」によると、1999年以降、朝食の欠食率は男女とも増加しており、特に20歳代で最も高く、男性で約3割、女性で約2割にも上る。
朝食欠食は、小学生のころから習慣化が始まる。朝食をとる習慣のないままに大人になり、子をもうけ、はぐくむ中でもそれが継続する。必然的に朝食をとらない子どもが増える。悪循環だ。
「『コンビニで買って食べなさい』と子どもにお金を持たせる保護者は、まだマシな方なんですよ」と野村先生。
「子どもが食べないから」 「忙しくて時間がないから」 「自分が食べないから」と朝食を作らない保護者。子どもは朝食欠食で生活のリズムが乱れ、授業では集中力を失い、疲れやすくなり、具合を悪くして保健室へ駆け込むケースも見られる。
今、子どもたちの 「食」の実態は深刻だ。
一方通行だった
1年目
平成16〜18年度の3年間、山口県教育委員会から 「子ども元気創造推進事業」のモデル校として指定を受けている椿東小。研究主題は 「心と体の健康づくりにすすんで取り組む児童の育成」。知育・徳育・体育を支える基盤となる 「食育」 「遊び・スポーツ」 「読書」への取り組みを通じて、子どもたちの元気を創造することがねらいだ。
1年目に行われたのは、子どもたちを中心とする実態の把握と、取り組みの方向性を明確にすること。そして 「食」の大切さを子どもたちに伝えることだった。しかし、実態調査によって表出した数字は、先生方に危機感を与えたという。
「朝食をとらない子どもが全体の15%にも達していたんです」と野村先生。
「無気力、睡眠不足、集中力の低下、ストレス過多、体力の低下など、子どもたちは『元気』とは程遠い場所にいました」
学校からの一方通行では成果は上がらない。当然ながら 「食」の第一の現場は学校ではなく、家庭である。保護者を巻き込んだ取り組みを推進しなければ朝食欠食率は下がらない。根本の意識改革が必要だ。そう判断した2年目は、保護者から実行委員を募り、 「子どもの元気を考える会」を発足。家庭との密な連携による実践活動が行われることとなる。
双方向を目指した
2年目
学校がどこまで家庭に踏み込んでよいのか、正直、迷いもあったと野村先生は語る。しかし、日々成長を続ける子どもたちは待ってはくれない。
手探りだった1年目の経験と、把握した子どもたちの実態を受けて、椿東小では次々と新たなプログラムが実践に移された。 「給食残量及び朝食欠食ゼロと孤食の減少に努める」 「食や食習慣に関する理解や関心を高めるとともに、基礎的技能を向上させ、学習したことを学校や家庭で実践できるようにする」 「苦手な食材でも食べられるように努力する」といった具体的な目標を立て、それに対する取り組みとして、朝食アンケートの実施、縦割り班でのふれあい給食の実施、残食ゼロの日 「食器のスッ空カンデー」の設置など、具体的で系統的な給食指導が行われてきた。
その中でも最たるものが 「元気っ子フェスティバル」だ。これは、学校における元気創造への取り組みを保護者や地域に発信するためのイベントである。
保護者の意識を
高めるイベント
「生活習慣チェックカード」は、早起き・朝ごはん・排便・外遊び・読書・早寝といった項目ごとに、 「できた=○」 「少しできた=△」 「できなかった=×」を記入して子どもたちが自己評価する。
初開催となった2005年11月。子どもたちにとっては、生活科並びに総合的な学習の時間での学びの成果を披露する場となった。
サツマイモの茎を材料にした工作、食のリサイクルに関する学習発表、萩の伝統的な郷土料理の紹介など、さまざまな発表がなされ、来校した保護者や地域の人々の注目を集めた。
また、家庭における努力目標の掲示(低学年:日曜日は早く寝よう・ノーゲームデー、中学年:1日5分は家族との団らんをもとう・週に2日は汗をかこう、高学年:食事中はノーテレビ)や、保護者に対する 「子どもの元気と朝ごはん〜誰でも作れる簡単レシピ〜」実演・試食会なども行われ、まさに実になるイベントとして認知されたという。
また、「子どもの元気を考える会」が発行する 「元気っ子便り」も順調に号を重ねた。元気創造の取り組みを伝えるだけでなく、生活習慣チェック表を設けて保護者に記入してもらい、回収してデータ化するという双方向性のある配布物にしたことで、保護者の食生活に対する意識もぐっと高まったという。
さらに、 「生活習慣チェックカード」で毎日の生活をチェックしたり、保護者への個別面談を実施して直接食生活の指導を行うなど、具体的かつ効果的な施策を推進し、 「子ども元気創造推進事業」モデル校指定2年目の終わりには、朝食欠食率が10%にまで下がった。
6食に関する指導と給食管理を一体のものとして行うことを目的として、2005年4月よりスタートした栄養教諭制度。野村先生は、山口県に7名配置されている栄養教諭の1人だ。栄養士の資格を取ったときから、地域に根ざした食生活の改善に努めている。