小学校の実践事例
冊子にまとめてビデオで宣伝!わたしたちの地域を伝えよう
〜はっぴょう名人で交流学習の名人に〜
熊本県・天草市立下浦第一小学校
送信者から
受信者になって
ビデオを撮り終えてパソコン室に戻った子どもたち。上村先生はビデオをプロジェクターにつなぎ、スクリーンに映す。 「それでは早速、観賞会を始めましょう。みんなは仙台のお友達になったつもりで、『この冊子はどんな内容だろう、楽しみだな、早く読んでみたいな』と思えるビデオかどうか、考えながら見てくださいね」
冊子をめくりながら全体をくまなく解説するグループ。ポイントをいくつか絞って紹介するグループ。表紙だけを見せて中身を期待させるグループなど、ビデオの内容はさまざまだ。スピーカーを通じて聞こえてくる自分の声が、自分のものではないように感じられて恥ずかしいのか、自グループのビデオに思わず耳をふさいでしまう子どもも。
照れながらも自分たちのグループのビデオを見る。みんないい笑顔だ。
すべてを見終えたところで、上村先生はみんなに問いかける。
「さあ、どのグループのビデオが良かったかな? どのグループの冊子を読みたい!と思った?」
子どもたちは少し考えてから、口々にどのグループが良かったか発言する。子どもたちの支持を集めたのは、カメラはワイド側で固定し、グループの3人が全員映っていて、しかも冊子の内容に関しては軽く触れただけのものだ。上村先生は子どもたちの意見に大きくうなずいて続ける。
「このビデオは冊子をPRするためのものだよね。だけど、ビデオで冊子の内容を事細かに全部説明されてしまったら、わざわざ冊子を読みたいと思うかな?」
情報の送信者としての立場でビデオを撮っていた子どもたちが、受信者の立場で考える。すると子どもたちは「読まない」と首を振る。
「そうだよね。だから、中身についてあんまり詳しく説明するんじゃなくて、『続きはCMのあとで!』みたいに、『詳しくは冊子を読んでね』と伝えた方が、思わず中身を読んでみたくなるよね」
笑顔でうなずく子どもたち。受信者の気持ちを考えて送信することの大切さを学び取ったようだ。
客観視することで
改善点が明確に
自分たちのビデオの良かったところ、改善すべきところをしっかり把握して感想を述べる子どもたち。送受信の循環が行われている。
「それじゃあ、今日の授業の感想を聞こうかな」
そう言って挙手を求める上村先生。元気よく手が挙がる。
「冊子の説明がちょっと長くなってしまったけれど、よくしゃべることができたし、ちゃんと撮れたと思います」
「ビデオで撮ると、自分を客観的に見ることができるので、もっと声を大きく、とか、姿勢を良くしよう、とか、いろいろと気づいて、勉強になります」
「みんなそれぞれ違う撮り方だったので、自分たちのビデオもここを変えれば良くなるな、というのが分かりました」
子どもたちの頭の中には、すでに自分たちのビデオの改善点が明確になり、撮り直しのプランができあがっているようだ。
「今日はこれで終わりますが、あと1回ぐらいビデオの撮り直しをして、冊子と一緒に仙台に送ることにしましょう。いいですか?」
またしても一斉に「はい!」と大きな声で子どもたち。盛りだくさんな授業を終えた。
まさに工夫次第の
交流学習
交流学習を行うための工夫が、この付せん紙だ。11月には、ICT環境もかなり改善される予定とのこと。
今年の4月から始めたばかりという交流学習。子どもたちにはとても刺激的な体験のようだ。「もっと相手のことを知りたい」「もっと自分たちのことを伝えたい」という子どもたちの思いに圧倒されることもしばしばだと語る上村先生。
「本当はテレビ会議などもやってみたいんですが、まだまだ回線や設備などが不十分で、環境的に難しいんですよ」
教室の後ろには、交流の場となっているWeb掲示板を印刷したものが貼られている。その印刷物の周りには、子どもたちが記入した付せん紙がぺたぺた。
「パソコン室のパソコンしかインターネットの掲示板にアクセスできないんです。ですから、こうして印刷したものを教室に貼って、いつでも読める状態にしておく。子どもたちはそれに対する感想や疑問を付せん紙に書いて貼る。付せん紙に書くという行為そのものが、要約と下書きを兼ねているんですね」
パソコン室で一斉に掲示板にアクセスして書き込むことはできるが、時間の制約がある。書いている途中で時間終了となれば、その途中のものは諦めざるを得ない。そうなると時間も無駄になってしまうし、何よりも子どもたちの満足感や達成感はほとんど得られない。そんな難題を解消するのが、この付せん紙と言うわけだ。
「たとえ環境的に厳しくても、交流学習のすべはたくさんあります。特に本校は単学級で、子どもたちはほかの同世代の子と接するチャンスが極端に少ない。だからこそ、積極的に交流学習を行っていきたいですね」
熊本県南西部、美しい天草諸島の中心部に位置する天草市は、今年3月、本渡市・牛深市・有明町など2市8町が合併して誕生した。その中でも下浦町は石材とポンカンの里として知られ、特に下浦石は長崎オランダ坂の石畳にも使われているなど、子どもたちの調べ学習の素材としても秀逸だ。全学年単学級。児童数65名。中嶋康人(なかしま・やすと)校長。