小学校の実践事例
保護者との連携で育てる情報活用の実践力
〜市総合学習センターが築く実践の足場〜
山形県・山形市立東小学校
あふれる臨場感
驚きの生教材
子どもたちの意見発表の素速さ、的確さに保護者も驚かされる。
続いて遠藤先生が用意していた第3の教材は、そんな子どもたちや保護者たちをさらに驚かせるものだった。先生がおもむろに流し始めた音声は、なんと、先生宅に実際にかかってきた「振り込め詐欺」の生録音だったのだ。
遠藤先生をその父親だと思い込んだ詐欺犯は、遠藤先生が不祥事を起こしてしまい、その解決に400万円ものお金がすぐに必要だと早口でまくし立てる。電話口の横にはニセの遠藤先生役まで置いて泣き声を聞かせるという凝った演出ぶりに、保護者たちも口々に「すごいわね」「本当にこんなのが来るのね」と顔を見合わせる。
一方子どもたちは「どうしてこんな早口なんだろう」「ハッキリ聞き取れないね」と疑問を口にし始めていた。
そこですかさず先生が問いかける。
「そう、いいところに気づきましたね。こんな風にしゃべってるのには理由があるんです。どんな理由か分かりますか?」
「う〜ん……」とやや間があったものの、次々に子どもたちが反応する。
「事情をよく分からなくさせるため」
「混乱させるためじゃないですか」
「そうですね。よくわけが分からない内に危機感だけを与えて、お金を振り込ませようと考えているんでしょうね。先生はそれを見抜けたので大丈夫でしたが、こんなことが実際にあるんですよ」
遠藤先生はここでさらに、子どもたちに考えることを促す。
「この電話をかけてきた人は、先生の名前と電話番号だけではなくて、先生が学校の先生だということまで知っていました。そういった情報は、どこから漏れてしまったんだと思いますか? ちなみに先生はインターネットで自分の情報を書いたり流したりしたことはないんです」
考え込む子どもたち。そこで先生の指示で隣の子との相談がスタート。
「先生のところに来た郵便物をポストから盗んで情報を取ったんだと思います」
「お店とかのポイントカードを作るときの情報から漏れたかもしれません」
などなど、多くの意見が出され、それぞれに保護者も大きくうなずいている。
「そうですね。どこからかは分からないけれど、今の意見にあったようなところも含めて、自分の情報が漏れてしまう可能性があることを知っておく必要がありますね」
うなずく子どもたち。そして保護者たち。
ここまでの授業の中で、すでに子どもたちと保護者とは、個人情報について考える態度を共有しているようだ。
知識を支える思考と実践
「これは、先生の家に実際にかかってきた電話なんです…」そう話して「振り込め詐欺」のテープをスタートさせる遠藤先生。その迫真の詐欺テープには子どもたちも思わず聞き入った
授業の締めくくりとして、個人情報とはどんなものか、そしてそれが漏れ出すことによってどんな問題が起こるのかが、子どもたちとの質疑やスライド教材を通じてまとめられていく。
法律用語でいう個人情報とは「個人を識別・特定できる情報」だが、ここでは「学校の名前」や「親の名前」など、実際に子どもたちや家庭に害を及ぼす可能性のある情報が網羅的に取り上げられている。
「学校の名前が知られると、どんな困ったことが起こるかな?」
そんな先生の問いにも
「待ち伏せにあったりする」とすかさず的を射た答えが返ってきた。
「それじゃあ、そういう目に遭わないために、どんなことをしたらいいでしょうね。ネットで個人情報を守ることについては今日勉強しましたが、先生の家にかかってきた電話のように、ネット以外にも危険があるんですね」
またも子どもたちの相談タイム。保護者がそれに加わる姿も見られた。
「個人情報の入った書類を捨てるときにはその部分を消してから捨てます」
「シュレッダーを使います」
などなど、ここでも子どもたちの回答は的確で実践的だ。
個人情報とは何か、で終わらず、それがどうして大事なのか、どう守ればいいのかを体系的に、そして実践的に学ばせようとする授業が成果を上げている証拠だろう。最後は今日の学びを確認する意味合いを含め、 『ジャストスマイル3@フレンド』のグループウェア『つたわるねっと』の機能を利用したアンケートで授業は終了となった。
発信する学校
立ち上がる地域
授業の締めくくりは、『ジャストスマイル3@フレンド』のスライド教材を利用した個人情報についての知識のまとめ。個人情報とは何か、それがどんな危険を生むのかを、この日学んだ「守り方」と合わせて心に刻んでいく。
子どもたちが教室へ戻った後のコンピュータ室では、そのまま保護者たちがコンピュータと向き合って、学校ホームページや子どもたちとネットとの接触実態について先生から説明を受け、また先の授業でのアンケート結果など実際の情報に触れる機会が持たれた。
東小では現在、児童宅のインターネット接続率が5割強。そのままでは残る家庭では保護者が学校ホームページに触れる機会がなくなってしまう。そこで携帯電話からでも学校の情報が得られるよう、携帯電話向けのホームページまでが開設されている。
こうした積極的な取り組みが功を奏してか、この日の授業参観でも保護者の出席率は実に9割に上った。本誌がこれまで取材してきた授業参観や保護者会を通じてみても、この数字は突出して素晴らしいものだ。
授業終了後には、保護者がパソコンと向き合って、学校ホームページの活用法や、授業で行ったアンケート結果の解説が行われた。
家庭の支援が欠かせない情報モラル教育において「(こうした行事に)出席してくれる保護者は心配ない。むしろ心配なのはこうした場にいない保護者とその家庭なのだ」という指摘があるが、東小のようすは、そうした心配を吹き飛ばすかのような、子を思う親の気持ちを熱く感じるものだった。
言うは易く行うは難い「発信する学校」。それを可能にしたのが教育委員会によるネットワーク整備と、体系的な研修・実践プログラム(「教育“新”動向」参照)だ。市が一丸となって進めるこうした取り組みに応えて、今、保護者や地域が立ち上がろうとしていることを力強く感じた取材であった。
2学期制の導入や振り返りカードによる自己評価の試みなど、よりよい学びのための新しい取り組みに率先して取り組む校風で知られ、情報教育についても山形市内で先進的なポジションにある学校だ。生徒数412名。奥山博史(おくやま・ひろし)校長。