小学校の実践事例

デジ・アナ発想で引き出す子どもたちの気づき 
〜『地図スタジオ』+OHPの実践に見るIT─教科連携〜
徳島県・三好郡三加茂町立加茂小学校

手動レイヤーとOHP

さまざまな情報が書き込まれた地図を重ねてみる子どもたち

こうした作業を経てプリントされた地図は、まず班ごとに、あらかじめ用意した県の人口分布図や地形図と重ね合わせて、それらの間にどういった関係がありそうか考えていく。

あちらこちらのグループの輪から
「ほらここ! 人口の多いところばっかり通ってるよ」
「高い土地には、あんまり高速道路がないね」
といった声が上がる。

色々な切り口の地図を重ねて見ることによる気づきは、子どもたちにとって直接的かつ新鮮なもののようだ。

出席番号順に編成されたグループは、日頃の学級活動の単位でもあるため、コミュニケーションはスムーズに行われている。ただ、考えることが人任せになってしまわないよう、気づいたポイントについては、班単位ではなく、一人ひとりの子どもが付せんに記入し、それを教室のホワイトボードに貼っていく。

土井先生はここで作業を打ち切らせて、子どもたちをホワイトボードの前に集めた。

OHPが投影されたホワイトボードに自分の気づきを書き込む子ども

ここでOHPが登場。ホワイトボードには、徳島県の地形図を下敷きに、鉄道や線路などの交通網を書き込んだシートが重ねられて投影される。

港や空港はどんな場所にあるんだろう?

高速道路と国道はどんなところを走っているんだろう?

それぞれのテーマを担当した子どもたちが指名を受け、代わる代わるホワイトボード前で自分の気づきを述べていく。

先生はその度にシートを入れ替え、あるいは重ねていくことで、子どもたちの発言を裏付け、あるいは疑問を投げかけていく。

それまで自分のテーマだけを追いかけていた子どもたちの目に、OHPを使ったこの「手動レイヤー」が、新しい気づきを生み出していくのが感じられた。

デジ・アナ発想で広がる 教科との連携

授業を終えた土井先生にお話を伺った。
「地図を使った学習には、これまでも積極的に取り組んできました。教室の床一面に日本地図を広げて、自分たちの県と日本全体について考えてみたこともあります。地図のいいところは、それを見せただけで、子どもたちが必ず何かを発見してくれるということですね」

言葉や数字によって伝える知識とはまた違った、視覚による認識とそこから広がる思考の効果を、土井先生は実感しているようだ。

自分たちの作った地図が、さまざまな情報と重ねられ、投影されていく

「この実践ではコンピュータとプリンターをOHPと組み合わせることに挑戦してみました。地図の効果は今お話ししたとおりですが、自分たちで作った地図を使うことで、もっと主体的に学習に取り組むことができるというのが第一のポイントです。そしてもう1点、違った要素や切り口を持った地図を《重ねる》ことで、新しい気づきが生まれることに期待しました。今回は徳島県全域が対象だったので、たとえば警察署とか宅配便の集配所といった施設の分布まで踏み込めなかったのは残念ですが、今後はこの方法をもっと生かしていけそうですね」

 

取り組みの流れ

学習におけるIT活用は、その導入経緯から、どうしても総合的な学習の時間などに偏って進められてきたきらいがある。また、既存教科については、従来からの授業スタイルがあり、そこにITなどの新しい要素を取り入れるには、いろいろなハードルがあるのが現状だろう。

今回の土井先生の試みは、学校現場で長く親しまれてきたOHPと、パソコンによる地図作成とを組み合わせて学習効果を高めようとするものだが、このように、教師や子どもが慣れ親しんだ道具や方法論とITとをうまく組み合わせることで、活用の間口が広がり、その敷居が下がることは間違いない。

「校内研修や研究授業でも、ITってこんなふうに活用できるんですよ、という具体例を示せるように工夫してきました。そうすると、これまでITに関心のなかった先生からも『それじゃ、こんなことはできる?』という質問ですとか、『こんなことを思いついたんだけど』という提案をいただけるようになってきました」と土井先生。

これまで学校が育んできたアナログの大樹に、デジタルの若い枝を接ぎ木することで新しい花を咲かせることができる。そんな可能性を感じさせられた今回の取材だった。


◆三加茂町立加茂小学校

東京都の根岸小学校と共同して、2003年のマイタウンマップ・コンクールの文部科学大臣奨励賞を受賞するなど、これまでも情報機器の活用や遠隔交流学習に力を注いできた。児童数412名。細川初子校長。

取材/西尾琢郎 撮影/齋藤浩・西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。