小学校の実践事例
はっぴょう名人、算数に挑む
〜「楽しい!」が伸ばす子どもの力〜
鹿児島県・枕崎市立枕崎小学校
小学生でも無理なく使え、子どもたちの「伝えたい」を形にできることから大好評の『はっぴょう名人2』。このソフトを通じて行われるプレゼンテーション指導の実践については、これまでも本誌で数多くお伝えしてきた。今回ご紹介する枕崎小学校では、この『はっぴょう名人2』をなんと算数の授業で活用しているとの情報をキャッチ。早速取材にお邪魔することにした。
楽しい問いは楽しく解ける先生作「クイズ少数ネリア」
鹿児島県南部、古くからカツオ漁の町として知られてきた枕崎市。その中心部に位置する枕崎小学校は、その土地の雰囲気そのままに、明るく開放的なムードあふれる学校だった。
取材に訪れた私たちを迎えてくれたのは子どもたちの笑顔と元気なあいさつ。いつも感じさせられることだが、こうした学校では、必ずいい実践に出会えるものだ。
今回お邪魔したのは、4年1組の算数の時間。小学校の算数と言えば、計算練習が大きなウェイトを占めるだけに、ドリル教材の提示など限られた形以外でIT活用が行われる事例は決して多くない。この授業では、そうした教師からの問題提示にとどまらず、しかもプレゼンテーションソフトである 『はっぴょう名人2』を利用するという。果たしてどんな授業になるのだろうか。
期待を胸に迎えた授業開始の時間。教壇に立った坂本先生は、子どもたちを教室前方に集めた。
「今日は、まず最初にみんなでクイズに答えてもらいます。名付けて『クイズ少数ネリア』!」
「ええ〜っ!」「何それ〜?」
歓声を上げる子どもたち。先生は笑顔で教室前方のスクリーンに手作りのクイズ画面を映し出した。
どこかテレビのクイズ番組を思わせるようなユーモアたっぷりのタイトル画面。その後で最初に映し出されたのは「水深1.2m」という画面一杯の文字だ。
「前回までの授業で小数の計算について勉強してきましたね。みんなの身の回りには、実はたくさん小数が使われています。さて、ではこれはどんなところにある小数か、分かるかな?」
子どもたちは一瞬顔を見合わせたものの、すぐさま元気よく手を挙げて答えていく。
「はい! プールの飛び込み台です!」
先生はあくまでクイズ番組のノリを崩さずに問い返す。
「ファイナルアンサー?」
「はい!」子どもも自信満々だ。
ここで画面が切り替えられる。
「正解!」
続いて洗剤の箱、上履きのサイズ表示などなど、いくつもの「身近な小数」の画像が映し出され、子どもたちは次々とそれに答えていく。
この時点ですでに、子どもたちは授業にすっかり引き込まれているのが分かる。「問題」ならぬ「クイズ」がこんなにもいきいきとした子どもたちの反応を引き出すのだ。
ここで坂本先生は、スクリーンに今日の授業のめあてを表示した。
「パソコンで楽しい小数の虫食い算を作ろう」
子どもたちが声をそろえて読み上げる。
「さぁ、今日はみんなの好きな虫食い算をやっていきます。計算方法については覚えているかな。いくつかおさらいしてみましょう」
引き続き、これも先生手作りの虫食い算の問題が映し出されていく。子どもたちの気持ちは「クイズモード」のままだ。食い入るように画面を見つめ、どんどん挙手する子どもたち。
虫食い算の出題画面には、先生の写真が添えられていて
「ふふふふ・・。この問題がとけるかな?」
と語りかけるセリフが加えられている。実はこうした工夫がこの後の取り組みへの伏線になっていた。
子どもたち、出題者になる。
「それではこれから、パソコンでみんなに虫食い算の問題を作ってもらいます。使うソフトは『はっぴょう名人2』です。さっきのクイズも、実は先生がこのソフトで作ったんですよ。操作は簡単だから、まず見ていてください」
坂本先生はソフトを操り、問題シート、そして回答シートの作り方を実演していく。『はっぴょう名人2』はその操作の流れがシンプルなため、子どもたちにも理解しやすいようだ。
「作り終わった問題は、その後クラスのみんなに解いてもらいますから、問題を解く人がやるぞーと思って楽しく解けるように、色を変えたり、絵を入れたり、セリフを入れたりして、楽しい問題にしてください。それではスタート!」
子どもたちは席に戻り、一斉に問題作りに取りかかった。
今し方取り組んだ、先生のクイズが頭にあるせいか、子どもたちはすでに問題シートの完成図が明確にイメージできているようで、その作業には迷いが感じられない。
とは言っても、どの子も同じようなスライドを作ろうとしているという印象はなく、特に「楽しく」「解く人がやるぞと思える」という点については、思い思いのイラストやセリフが加えられていくのが楽しい。
はっぴょう名人、出題名人になる。
『はっぴょう名人2』はプレゼンテーションソフトとして開発されたものだけに、通常は調べ学習の発表や、プレゼンテーション指導などに利用されることが多い。
今回の実践では、それを子どもたちによる問題シートの作成に使った点が非常にユニーク。子どもたち全員がこのソフトを使って問題の「作り手」になる体験をした上で、クラスメイトの作った問題の「解き手」になることから、本来はプレゼンテーションシートという文書を作成するためのツールである『はっぴょう名人2』が、子どもたち同士が問題を作り、解くという一種のコミュニケーションツールとして機能している。
ここで見逃せないのは『はっぴょう名人2』の豊富な表現力だ。行組みされた行儀のいい文書を作ることに適したワープロソフトとは違う自由さがある一方、「ページをめくる」というお絵かきソフトにはない流れのあるコンテンツが作れるのがこのソフト。その特性を見事に生かしたのがこの日の実践だったと言えるだろう。
自分の問題に答えてくれる友だちの顔を思い浮かべながらの作業。ご当地ならではのセンスで選んだイラストも見ていて楽しい。
『はっぴょう名人2』の各種装飾機能については、子どもたちが授業本来のねらいよりも装飾に気を取られてしまうため、あえてこれらの機能を使わせないという指導を目にすることもある。しかし、今日の実践では、あくまで虫食い算の問題をしっかりと作ることを出発点として繰り返し確認を行っている。その上で、解答者としての友だちを思いやり、受け手を意識した問題作りをするための道具としてこうした装飾機能を活用するよう導いていたのが印象深い。どちらの指導が正しいというわけではもちろんないが、子どもたちの「楽しむ気持ち」を授業の推進力として生かすこの実践には大きな魅力がある。
はっぴょう名人が「出題名人」になったこの日、使い手が発想を豊かにすれば、このソフトはもっといろいろな「名人」になれるかもしれないと思わされた。