小学校の実践事例
制作体験を通じて知る メディアの特性
〜ポスターとビデオコマーシャルを比べてみよう〜静岡県・富士市立元吉原小学校
メディアの特性を知り、使いこなす力を育てる。言うのはたやすいが、これは大変に困難な取り組みだ。しかし、メディアが多様化の一途をたどり、その影響力を増している今、もう待ったはきかない。そんな中、全校的なカリキュラム開発を推し進めてメディア教育の実を上げている富士市立元吉原小学校へお邪魔した。
全校規模で取り組む情報教育
弊社刊の単行本『メディアとのつきあい方学習』でもその取り組みを取り上げたのが、今回お邪魔した元吉原小学校だ。文部科学省の研究開発学校指定を受けた教科カリキュラム開発などを経て、全校的に体系化された情報教育を行っている。
情報担当の吉野先生はカリキュラム策定の中心となる一方、各学級での情報の授業を担任との2人体制で行うことで、学級ごとの偏りが少なく、学年間で緊密に連携した情報教育を実現している。
教育にはそもそも属人的な面が色濃いが、ノウハウが確立されているとは言い難い情報教育の分野においては一層その傾向が強い。そして、担任教師の資質次第で、子どもたちが受けられる情報教育の質は(あるいは量も)まったく違ったものになってしまうことが多い。
元吉原小は、カリキュラム開発を背景とした学校全体の取り組みを進めることでこうした弊害を乗り越え、学校ぐるみで1つの教育目的を達成しようとしている点で、特に注目すべきだと言えるだろう。
「伝えたいこと」にこだわる力
私たちが取材にお邪魔したのは、4年1組の授業。国語と総合的な学習の時間を合わせて設定されたこの単元は「コマーシャルを作ろう」というもの。同名の単元は国語の教科書にあるが、元吉原小では、それをさらに深く掘り下げて、単なる表現手法の学習にとどまらないものとして練り上げた。
元吉原小の情報教育カリキュラムは、それぞれの単元が「関心・実践力・知識・モラル・技能習得」という5つの要素で構成されている。
今回の単元では、コマーシャル作りの体験を通じてコマーシャルについての考えを深めようとすること(関心)、自分たちが紹介したいもののコマーシャルを作ることができる(実践力)、コマーシャルには伝え手の意図が込められていることを知り、ポスターや動画といった伝達手段にはそれぞれのよさがあることに気づく(知識)、身の回りの著作権について考える(モラル)、デジタルカメラやビデオカメラ、コンピュータを使ってコマーシャルを作ることができる(技能習得)といった構成となり、元になった単元に比べて、大きく深化した学びを目指していることが分かる。
こうした広がりを持つ今回の実践だが、その1番に目指すところは何なのだろうか。吉野先生に伺ってみた。
「1番には、子どもたちが自分の“伝えたいこと” にこだわる力を身に付けてほしいということです。この単元では、ポスターとビデオコマーシャルを自分たちで作ります。そのためには技術も必要ですが、“伝えること”や“伝わること”を、送り手、受け手の双方の立場で実際に体験することが必要だと思っています。そうした体験を通じて、それぞれのメディアの良さに気づいたり、日ごろコマーシャルを通じて得る情報を自分なりに判断する力を身に付けてくれたらうれしいですね」
この日の授業は、単元のまとめに入っていく段階。すでにポスターとビデオコマーシャルの制作を終えた子どもたちが、その取り組みを振り返り、プロが作った実際のCMを改めて見た上で、自分たちの工夫とどこが共通しているかを考えていくという。期待を胸に教室へと足を運んだ。
付せんが引き出す子どもたちの思い
4年1組の担任は鈴木美鈴先生。今日の授業も吉野先生との2人体制で行われる。
始業のあいさつが終わると、鈴木先生はまず、これまでのポスター・CM作りの取り組みを振り返るよう子どもたちに促した。
「みなさんが今までやってきたポスター作りやコマーシャル作りの中で、どんなことに気をつけたり、工夫したりしてきたか覚えていますか?」
先を争うように手を挙げる子どもたちを優しく制して、2人の先生は2色の付せんを子どもたちに配り始めた。吉野先生が付せんについて説明する。
「ポスター作りについて工夫したことは、緑の付せんに、コマーシャル作りについては黄色い付せんに1つずつ書いてくださいね。それではスタート!」
子どもたちのこれまでの活動は、ワークシートなどを中心にすべてファイリングされている。子どもたちの机の上にはそのファイルが開かれて、振り返りを助けているようだ。
「キャッチコピーは大きな字で書く」
「カメラ目線にならないようにする」
などなど、配られた付せんは見る間に子どもたちの書き込みで一杯になっていく。
「もっと付せんをください!」「足りません!」
先生に付せんの追加を求める子どもたちも続出。それだけ多くの「こだわり」がこれまでの活動の中で発揮されてきたのだろう。
続いて吉野先生から、こんな指示が飛んだ。
「それじゃあ、書くのはここまでにして、班ごとにまとまってください。それぞれが書いた付せんを持ち寄ったら、似たもの同士をまとめて仲間分けをしてみてください。いいかな?」
付せんを使った「こだわりポイント」の書き出しは、班での「仲間分け」作業に一人ひとりのアイデアを持ち込みやすく、同時に仲間分け、すなわちグルーピングの作業も試行錯誤しながら進めていくことができる優れものだった。
さらに、2色の付せんの使い分けはここから先で威力を発揮した。
「今、仲間分けをした付せんを見てみてください。同じ仲間の中にも緑と黄色の付せんが一緒になっているところがあるよね。それを言ってみてくれますか?」と鈴木先生。
「キャッチコピーの色や大きさを目立たせること」
「ブレに注意するのは、写真も動画も一緒でした」
子どもたちから、次々と手が挙がる。
「そうですね。これがポスターとコマーシャルで共通していることなんだね。反対に、2色の付せんが交じっていなかった仲間は、ポスターとコマーシャルの違ったところということになります」
なるほど、これで2つのメディアの共通点と相違点とがハッキリ目に見えるわけだ。