小学校の実践事例
テレビ会議での取材を通じた動物園のポスター制作
〜常に問いを発する実践が子どもたちを導く〜
宮崎県・宮崎市立池内小学校
ドキドキをエネルギーに
そして授業は、ようやく今日の本題へ。
骨組みができあがっている文字要素を「読みやすく」「目に付きやすく」するための工夫が今回のテーマだ。
まず、ひとつのグループのファイルを材料に、先生が「はっぴょう名人」の機能を実際に使ってみせていく。フォントや文字スタイルの変更、そして台紙の色やパターンを変更するたびに、子どもたちから歓声があがった。すかさず問いかける水野先生。
「さっきの文字とこの文字だと、どちらがいいかな?」
「こっちの方がいいです」
「どうして?」
「こちらの方が読みやすいから」
驚きにあふれたパソコンの機能を目にした子どもたちの「ドキドキ」を、すぐさま知識とエネルギーに変換していく。そんなエネルギーが満タンの子どもたちが、いよいよ作業スタート。今目にした驚きを、自分たちの手で試してみたい! 子どもたちの目が輝いている。
絶えず軌道修正を
池内小学校では、教科でのローマ字学習とは切り離して、キーボード入力のためのローマ字指導を行っている。そのため、3年生のこのクラスでも、子どもたちは難なくローマ字でのキーボード入力をこなしていた。
「子どもたちにとっては、表記文字としてのローマ字と、キーボードに打ち込むためのローマ字は別のものなんですよ。Aと打てば「あ」が出る。ただそれだけなんです」 と水野先生。
そんな子どもたちだけに、パソコンの操作には迷いもなく、先ほど先生が見せてくれた「はっぴょう名人」の機能をどんどんメニューから「発見」していく。
「うわ〜! この背景、いいよ!」
そう声を上げたグループの輪に先生が加わった。
「確かにカッコイイ背景だね。でも、これって何のポスターだったかな?」
夏の浜辺をイメージしたイラストを背景に選んだ子どもたちに、ポスター作りの目的をもう一度問いかける。
「あ、そうか。動物園に貼ってもらうポスターなんだ。海は関係ないかなぁ……」
子どもたちのエネルギーを押さえつけるのではなく、うまく軌道修正していく水野先生の指導で、ポスター作りは進められていった。
「さぁ、ちょっとこっちを見てくれるかな」
先生が、先ほどから教室隅にあるエプソンの大判プリンタPM-7000Cで出力していた、ひとつのグループの作品を掲げて子どもたちに見せる。
「文字の大きさがちょっと小さいね、と話しているグループもあったけれど、実際に印刷すると、こういう大きさになります」
子どもたちは目を見張った。 「大き〜い!」
「こんなに大きく印刷していくから、タイトルなどが大きいのはいいんだけれど、他の部分はある程度小さめでも、ちゃんと読めそうだね。これを参考にしながら、もう少し作業を続けてみてください」
と水野先生。
パソコン画面の中で作っていくポスターと、実際の出来上がりのイメージのズレについても、現物を見せて軌道修正を行っていく。
こうした指導も、授業の前段で詰め込んではなかなか子どもたちの身に付かないもの。取り組みの要所要所で、子どもたちに「気づき」の材料を的確に投げかけていく手法は、先生の長年に渡るパソコン指導の経験に基づくものだろう。
ここで授業終了のチャイム。
子どもたちの工夫を詰め込んだファイルは保存され、日直の号令が響く。「がんばりました!」
大きな声で挨拶する子どもたちの目は、自分のがんばりと、いくつもの新しい体験に満足した表情だった。
この授業は、引き続き文字の体裁を整えた後、実際に動物園に出かけて、子どもたち自身が、ポスターのテーマに沿った写真を撮影、最後にすべての要素を組み合わせてポスターが完成する予定だ。
よくできたポスターは、実際に動物園に貼ってもらえるという。そのことが、さらに子どもたちのやる気につながっているようだ。
テレビ会議の価値について
テレビ会議については、早くから取り組みが進められてきたことから、ともすれば、新鮮味を感じない向きもあるかもしれない。
しかし、その価値は、現在でも全く減じていないことが、水野先生の実践から伺える。
テレビ会議の活用に取り組み始めた当初は、
「とにかく遠くの人や学校と交流を持つことに一生懸命だった」
と先生。しかし現在では、むしろ近くの相手との交流の大切さを感じているという。
「現在も、お隣の小学校と定期的にテレビ会議で交流をしているんですが、近くにあるので、折に触れて実際に出会って交流することができるんです。そうすると、実際の対面後には、明らかにテレビ会議での接し方が変わってくる。画面の向こうの相手と実際に出会うことで、人と接している実感が得られたからなんでしょうね」とのこと。
テレビ会議の活用においては、児童が画面の向こうの相手に、実感を持って接することができるように指導することが大切だという。
そうした指導の上での体験が、立ち戻って遠方とのテレビ会議や、あるいはインターネットなども含む媒体を通じた人とのつながりを、豊かなものにしていくことができるのだろう。
昭和45年創立。隣接する住宅団地と共に生まれ、育ってきた学校だ。老人施設や保育園などの施設訪問を通じた地域との交流も積極的に行っている。学校のシンボルは「夢・花・力」。その通り敷地内では多くの花々が育てられている。児童数372名。