小学校の実践事例

「情報教育交流会」を通じて学生の「プロ意識」を高める 
〜情報教育の現場と連携した教員養成〜
山形県・山形大学教育学部

「使える」ことと「教える」ことの差異

メンバーは1年〜4年生の学生たち

「最初は、子どもたちからどんな質問が来るだろう…とか、答えられなかったらどうしよう…とか、不安はいっぱいありました」
先日初めて「情報教育交流会」へ参加したという1年生も、すでに何度も参加し、もうすぐ教員への道が開ける4年生も、そう口を揃える。

「でも、『ジャストスマイル』はカラフルで分かりやすくて、操作も簡単なので、情報教育交流会では、ソフトの使い方を教えることよりも、子どもたちが確実に目標に向かうステップをアドバイスすることができますね」

大学に入るまで、『ジャストスマイル』を使ったことはもちろん、その名を聞いたこともなかったと言う学生たち。そんな学生たちが、すぐに教える側に立つことができ、不安を自信に変えていくことができる。そこがこのソフトの素晴らしいところなんです、と佐々木教授。

柔和な表情の中にも、力強い信念が

「子どもの近くには他の先生がいるのに、わざわざ自分を指名して質問してくれたりするんです」

学生たちのうれしそうな笑顔。子どもたちの笑顔が、学生たちのやる気を喚起し、その笑顔を輝かせている。ここには確かな相乗効果が存在している。

「子どもへのアドバイスののち、子どもは自らその問題を解決する力を身に付けていなければなりません。手取り足取りのアドバイスでは子どもが身に付けることができず、かと言って、手も取らなければ解決へ導くことはできない。そのサジ加減が難しいところです」

「情報教育交流会」は、パソコンを「使える」ことと「教える」ことは違うのだということを、学生に認識させる場でもある。

子どもたちからの感想は学生らへの応援歌

入学と同時に1人1台が貸し与えられる

「情報教育交流会」を終えた子どもたちの多くは、
「分からないところを教えてくれてありがとう」
「先生はパソコンを使うのがとても上手だと思いました」
「また来てね」「大学でもがんばってください」
「今度パソコン使うときは、今日覚えたことを忘れないよ」
と、「先生」である学生たちに感謝と激励の言葉を寄せている。教員を目指す学生たちにとって、これは何よりの応援であろう。だからこそ学生たちも「参加して良かった」と思い、教員となることの喜びを知り、次のステップへと踏み出せるのである。

佐々木教授は、こうした試みを、附属小学校のみならず他の公立学校へも広げ、地域の学校と大学とが密接に連携した教育・研究を行っていきたいと考えている。今後、小学校におけるコンピュータの設置台数が増え、児童1人に1台が実現すれば、ますます「情報教育アドバイザー」としての学生たちの存在は有用なものとなっていくであろう。

パソコン=エンピツ ソフトもハードも単なる道具

協力し、相談しながら…

実際、子どもたちのパソコン習熟度は個人差が激しい。同学年でも、文字入力がやっとの子どもから、個人でホームページを持ち、タグまで理解している子どもまでさまざまだ。それは当然、日々、パソコンに触れているかどうかが鍵となる。

佐々木教授はこう話す。
「パソコンと言ってもエンピツと同じ、ただの道具なんです。頻繁に接していなければ簡単に覚えられるものも覚えません。1週間に1時間だけエンピツを使う子どもが、ものの書き方を覚えられると思いますか?」

パソコンは、確かに子どもの想像力の幅を広げてくれる道具である。パソコンが得意とする「記述」については、飛躍的に成長を遂げる子どもも多く現れる。しかし、それは魔法の箱ではない。

 

「学生のやる気を引き出したい」

「文字入力1つとっても、まだまだ改善の余地はあります。いくら優秀なソフトでも、ローマ字入力の文字変換表はどうしてモノクロの小さな表なんでしょう。子どもの視点で見れば、当然カラーで、もっと大きく、ローマ字は大文字にすべきです。なにしろ、キーボードに書いてあるローマ字は大文字ですからね」

ローマ字入力については、こうも語る。
「ローマ字入力とローマ字の習得はイコールではありません。入力するローマ字は記号と同じです。初めてパソコンに触れる段階からローマ字入力を教えても、何ら問題ないと私は思います」

現在、ローマ字学習は小学4年の2学期からとなっており、それまではカナ入力を教えている学校がほとんどだ。しかし結局は、多くの子どもたちがローマ字入力へ移行してしまう。カナ入力という努力が徒労に終わってしまうのは、非常にもったいないことである。

子どもたちが、パソコンを特別なものとしてではなく、エンピツや消しゴムと同じ「道具」として扱うことができるよう、環境から整えていくことが、学校でも、家庭でも求められている。

◆山形大学教育学部

JR山形駅から東へ2kmほどの距離に、事務局・人文学部・教育学部・理学部・附属図書館・総合情報処理センター・留学生センターを抱える小白川キャンパスが位置している。更に山形市飯田には医学部、山形市松波には教育学部附属関連施設、米沢市には工学部、鶴岡市には農学部を擁している。学生数8,182名(うち教育学部1,072名)。

取材・文/西尾真澄 撮影/齊藤浩
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。