小学校の実践事例
デジタルとアナログを上手に使い分けて学習の成果を楽しく発表
〜子どもたちの表現力アップと、地域交流を目的としたイベント「扇台発信」〜
石川県金沢市立扇台小学校
『はっぴょう名人』で外国の料理を紹介 子どもたちのアイデアが光る
“命と話そう〜食を通して〜”というテーマを掲げた5年生。通常の『総合的学習』の授業では、バケツ稲を育てたり、戦争中の食糧難や飢餓に苦しむ国について学んだりと、食に関することを勉強している。「扇台発信」では、食べ物の栄養や、身体にいい食事、昔の食事などについて調べたことを発表した。
外国の料理について発表しているグループは、『はっぴょう名人』で作った映像をプロジェクターで投影。国ごとに、国旗と代表的な料理を紹介する。
デジタルカメラで撮影した国旗の隣に、インターネットで入手した料理の写真を配置。韓国はチヂミ、ロシアはビーフストロガノフ、スペインはパエリアといった具合だ。背景にはソフトの中にあるひな型を使い、国名やタイトルなどは自分で打ち込む。文字を太くしたり、二重にしたりというアレンジも楽しい。
実は、このグループ、イベントの2日前に『はっぴょう名人』を初めて(!)使ったらしい。子どもたちはいくら飲み込みが早いといっても、制作にかかったのはわずか3時間というから驚きだ。
中心になって作った男の子に話を聞いてみると、「家ではパソコンでゲームをしています。『一太郎』を使うこともあるけど、ちょっと難しいな。『はっぴょう名人』はアイコンの絵がわかりやすいです」とのこと。子どもにとって説明書を読んで理解するという作業は難しい。アイコンの絵で操作をイメージできるのは『はっぴょう名人』の特徴のひとつだ。
さらに、このグループの発表はパソコンで作った映像と、手描きした模造紙とのセットになっている。模造紙には料理のレシピやクイズ、その国の料理の特徴をまとめた。文字で説明したい部分は模造紙を、大きな映像で見せたい部分はプロジェクターを使っているのだ。先生たちは、特にパソコンやプロジェクターを使うことを指示しているわけではない。「こんな道具もあるから、使ってもいいんじゃない」と、提案する程度だという。与えられたものにとらわれることなく、自由に表現方法を選んでいる子どもたちの姿に、先生たちも頼もしさを感じていた。大人顔負けの表現だが、発表のまとめは、「世界中を旅行して、いろんな国の料理を食べてみたい」という、子どもらしい、可愛い感想だった。
国際理解をテーマに劇と映像を組み合わせて発表
最終学年の6年生になると、取り上げるテーマや表現のレベルも高くなる。総合的学習のテーマは“がんばれ!世界の子どもたち!”。世界中の子どもたちが平和で幸せになるにはどうすればいいのか、自分たちにできることは何か、を考えようというものだ。
6年生の発表会場は体育館。3つのコーナーで構成される。
展示コーナーでは“世界の子どもたちの夢”を壁に貼って紹介。外国の子どもたちの写真をスキャンして、エプソンの大判インクジェットプリンタ・マックスアート『PM-7000C』でプリントし、彼らの夢を書き添える。大きくプリントされた子どもたちの写真は画像も鮮明で、訪れる人の目を引く。隣には、扇台小学校と交流のある台湾の子どもたちが描いた絵を展示。“楽しいこと”をテーマに描いてもらい、画像をメールで送ってもらったという。 また、募金やバザーのコーナーもあり、アフガンの子どもたちのために折鶴を作る子どもの姿も見られる。
そしてメインとなるのは、クラスごとに披露する出し物だ。子どもたちは創作劇とプロジェクターによる映像を組み合わせて発表する。
あるクラスは、ザンビアに井戸を掘る話を紹介。健康な生活にはきれいな水が不可欠だが、世界にはきれいな水を飲むことができない人がたくさんいる。その人たちのために井戸を掘ろうという内容で、ステージのバックには、実際にザンビアで井戸を掘っている映像を投影する。
ほかに、飢えに苦しむアフガンの子どもたちの様子を映しながら、食べ物の大切さを訴えるという劇も印象的だった。劇と映像を組み合わせることで、臨場感が生まれ、テーマも分かりやすくなる。ここでも、ステージのバックの映像に『はっぴょう名人』が使われている。イベントの前日のリハーサルで先生が、「こんなこともできるよ」と、このソフトを使ってバックに映す映像を作ってみたところ、子供たちは興味津々で「自分たちでやりたい」と、先生にとっても、うれしい反応を示したという。
6年生の発表を見ていた保護者の方は、「『総合的学習』で何を勉強しているのかを、具体的に知ることができてよかったと思います。世界の時事問題を取り上げているのには感心しました。子どもの成長を感じますし、何より子どもたちのイキイキとした表情がうれしいですね」と、ここでも上々の反応だった。
さて、残念ながら、今回は詳しく紹介できなかった、3・5・6年生以外の発表を紹介しておこう。1・2年生は“秋を楽しもう”をテーマに、手作りのアクセサリーやどんぐりのコマなどを展示。4年生は“ホタルを高橋川に呼び戻そう”をスローガンに、ホタルについて調べたことや、校区内を流れる高橋川に関することを発表した。校内にはさまざまな展示コーナーが設けられていたが、「大判プリンタを使うと、なんのコーナーかがひと目でわかるし、子どもたちが撮ったデジカメの画像がきれいにプリントされるのでいいですね」と先生たちにも好評だった。
コミュニケーションの道具としてのパソコン
扇台小学校がパソコンを導入したのは1999年。現在はパソコンルームのほか、3年生以上は各クラスに1台ずつパソコンが設置され、休み時間や放課後に自由に使うことができる。子供たちは自分のIDとパスワードを持っていて、校内イントラネット用の掲示板を使い子ども同士はもちろん、子どもと先生、先生と校長先生がメールのやりとりをしている、という好環境。また、パソコンでつけた学級日誌を他校と閲覧し合ったり、海外の子供たちと交流を図るなどの取り組みも活発だ。
「パソコンはコミュニケーションの手段だと考えています」と語るのはTT(ティームティーチング)の清水和久先生。「コミュニケーションをとるには、必ず相手が必要。パソコンを前にしていても、実際は人と人との関係です。電話と同じ感覚ですよね。扇台小学校ではアメリカや台湾の学校と交流がありますが、パソコンを使えば時間や場所に関係なくコミュニケーションをとることができます。2000年には、パソコンクラブで、台湾の学校と共同でホームページの作成もしたんですよ」。
学習の中にパソコンを取り入れることに関しては、「インターネットは調べものをするのに、とても便利です。ただ、調べたことをもとに自分の意見をまとめて、ホームページや掲示板に発表したりといった段階まで発展するといいですね。パソコンを使うこと自体が目標ではありません。自分から“発信”することを学んでほしいと思っています」と、子どもたちがパソコンを使って自分を表現してくれることを期待している。清水先生は今回の「扇台発信」での子どもたちの発表を『はっぴょう名人』で残しておく予定だ。「模造紙で作ったものは、そのままだとなくなってしまいますが、デジカメで撮ってパソコンに保存しておけば、記録として残せるし、いつでも見ることができます。来年の参考にもなりますからね」。
イベント当日、清水先生はデジタルカメラを手に、校内を走り回っていた。コンピュータを使った表現というと、無機的なものをイメージしがちだが、子どもたちの作品はじつに感性豊か。それは、パソコンを操作することが彼らにとって遊びの延長だからに違いない。遊び感覚で、楽しみながら作業に取り組み“自分を発信”した、子どもたちの発表のひとつひとつ。「扇台発信」に、今年も素敵な記録が加えられた。
英語活動、国際交流に積極的に取り組んでいるほか、ホタルの研究にも力を入れている。また、2000年には情報教育の一環として、6年生が卒業CD-ROMを制作。自ら作曲した校歌や、行事の写真などを収録した。これらの活動や学校行事の様子はホームページで公開中。