キャリア教育ヒントボックス

法を「活かす」専門家として人の痛みが分かる弁護士でありたい
弁護士 野村吉太郎(のむら・よしたろう)さん

イギリス遊学を経て独立

イギリス遊学を経て独立

友人の紹介で深沢法律事務所へ入所。いわゆる「イソ弁」時代を過ごす。イソ弁とは居候弁護士のことで、つまりはまだ修行段階の弁護士ということだ。

5年3カ月のイソ弁時代を経て、事務所を辞め、イギリスへと渡った野村さん。1年間の遊学時代を振り返る。

「もともと英語が好きだったんです。それに、これからどんな弁護士になるべきなのか、日本国内だけじゃなく、それ以外の世界も見てから決めたい、と常々思っていました」

野村さんはエクセター大学にて英語コース、LSEにてサマーロースクールを履修。海外で弁護士をするという選択には至らなかったのですか?と問うと、野村さんは笑ってこう答えた。

「向こうに住んで仕事をしている人に何人か話を聞いたんですけど、あまり芳しい話を聞かなかったんですよ。結局は翻訳の仕事になっている、とかね」

日本に戻り、赤坂に事務所を借りて独立。野村さん+秘書1人=2人でのスタートだった。

交渉力・調査力そして広い知識

LSE修了証書

LSE(THE LONDON SCHOOL OF ECONOMICS AND POLITICAL SCIENCE)サマーロースクール修了証書。応接間の壁に掲げられている。

野村弁護士の扱う事件は民事、家事、刑事を問わず。どんな依頼でも、依頼主から話を聞き、証拠を集め、分析し、必要に応じ交渉するという基本的な流れに変わりはない。

「法律はもちろんですが、弁護士はコミュニケーションとリサーチの能力、そして広い知識が必要とされます」

とある殺人事件で、犯行に至る経緯が争点となった。クロロホルムを使ったかどうか、検察側からは2種類の鑑定結果が出されたという。しかし、揮発性のクロロホルムは時間が経てば経つほど薄まるはずなのに、時間的に前に鑑定したものからはクロロホルムが検出されておらず、後のものからのみ検出されていた。

野村さんはその点に矛盾を見出した。

「殺人事件1つとっても、そんな風に化学物質の性質まで理解しなければなりません。医療過誤の訴訟なら医療の知識が、家庭問題なら男女や親子関係についても思いを巡らせなければなりません」

インターネットにまつわる事件

赤坂野村総合法律事務所ホームページ

赤坂野村総合法律事務所のホームページ。「『ちょっとどこか違う。いいね』と 言われる法律事務所を目指しています」という言葉が来訪者を迎える。相談者にとっては1番気になるであろう費用についても詳しく説明されている。

今後は、ソフトウエアや著作権に関する調停や、個人情報の流出といったインターネット上のトラブルから起こる訴訟などがますます増えてくると野村さんは予想する。

最近では、ある団体のサイトから不正に個人情報を入手し、その入手方法や個人情報などを公開するなどして、不正アクセス禁止法違反、業務妨害の容疑で元京都大学研究員が逮捕、起訴された事件が記憶に新しい。

この事件で、野村さんは団体側の弁護を担当。結局、元京都大学研究員に対して、インターネット上に個人情報が流出していないか、1年間の監視を義務づけることで和解が成立した。

「Web サイトの監視義務が認められた、ということで、画期的な問題解決ができたと思います」

人を助けたいという確かな気持ち

弁護士には、どんなことでも理解する柔軟な頭が必要、と野村さん。

「社会のことをさまざまな角度から理解していかなければなりません。広い視野を持ち、いろいろなことに興味を持って勉強することが大切です」

どんなタイプの人が弁護士に向いていますか?という問いに対して、野村さんはこう答えてくれた。

「どんな弁護士になりたいか、にもよりますけど、基本的に好奇心旺盛で、義侠心があり、人を助けたいと思える確かな気持ちを持っている人が向いていると思いますね」

人の一生を左右してしまうことも多々ある弁護士という仕事。当然ながら、その資格を得るための司法試験は簡単なものではない。

「合格するまでは、本人も辛いですが、親御さんも辛いと思います。でも、本人が諦めない限りは、周囲も辛抱強く支えてあげてほしいですね」

もし、自分の子どもが弁護士を目指すと言うなら、司法試験合格までは温かく見守ってあげたいと野村さん。自分自身がそうしてもらったように、と。

依頼者の喜ぶ顔が1番うれしい

野村さんin事務所

野村さんと秘書1人で始めた事務所も、今は秘書3人。うち2人は法学部法律学科を卒業しており、野村さんの補佐として活躍している。事件1つ1つに担当秘書がつき、野村さんの不在時にも対処できるような体制となっている。

「理想は、リーガルテクニックのエキスパートでありつつ、人の痛みが分かる弁護士であることです」

とにかく、依頼者が喜んでくれるのが1番うれしいと野村さん。依頼者からの感謝が何よりの力になるという。

「よく勝ち組、負け組と言われますが、上下の差が開いていびつな社会になっています。不況が長引き、決して明るくない世の中ですが、そんな世の中を少しずつでも変えていけたらと思いますね」

暗い世を明るく照らすための力になりたい、と野村さん。

「訴訟社会は良くない、という声もあります。でも、弱者が泣き寝入りする社会じゃダメなんです」

勇気を出して声を上げる人の手伝いをしたい。そう語る野村さんの言葉はとても力強い。

なお、野村さんが担当、弁護した刑事事件が、直木賞作家の笹倉明氏の手によって小説化されている。『白いマンションの出来事』と『推定有罪』の2冊だ。極力虚構を廃し、事実に沿った展開を見せるストーリーは手に汗握る。

これまでに会心の出来と言える訴訟はありますか?という問いに、野村さんはうーんとうなって思わず苦笑。

「それが……悔しかったことばかり覚えているんですよ」


野村さんPROFILE
野村吉太郎(のむら よしたろう)

1958年、3兄妹の長男として大分県竹田市に生まれる。

毎年1月1日に発行の事務所報「新千年紀」は、2005年で8号を数える(下記サイトでもPDFにて閲覧可能)。野村弁護士の素顔が垣間見えると好評だ。

■赤坂野村総合法律事務所
〒107-0052 東京都港区赤坂8-6-27-311
http://www.nomuralaw.com/

取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。