キャリア教育ヒントボックス
急速なコンピュータ化の中で
アナログとデジタルのベストミックスを追求
レコーディングエンジニア 石橋三喜彦さん
九州最大の繁華街・天神地区。レコーディング・リハーサルスタジオ『HEACON BASE(ヒーコン・ベース)』は、大通りから1本入った通り沿いに建つ、雑居ビルの1階にある。
この福岡でも数少ないプロユースのスタジオを経営するのが、レコーディングエンジニア・石橋三喜彦さんだ。
“音楽の街”を支える2つのスタジオ
『HEACON BASE』は、バンドの録音・リハーサル、メジャーアーティストのプリプロダクションからインディーズのCDやデモテープ制作など幅広く手がけている。
そして同じビルの5階には、レコーディング専用スタジオ『FULLHOUSE(フルハウス)』を構えている。石橋さんが、こよなく愛し続けてきたアナログの機器と、ここ数年でめざましい進歩を遂げているデジタル機器が融合したスタジオだ。
「古いビルだから、5階なのにエレベータがない。だから楽器類を持って上がるのが大変なんです。でも、ミュージシャンは一度入ってしまうと、使い勝手がいいと言ってくれます。福岡に在住しているプロミュージシャンやインディーズでがんばっているバンドがどんどんレコーディングしていますよ」
スタジオ自体はそう広いものではないが、あたたかみのある心地良いスペースに仕上がっている。
存在感のあるアコースティックピアノは、石橋さんのお気に入り。音楽スタジオには珍しく、大きく取られた窓からは近隣の街並みが見下ろせる。
レコーディング作業は長時間に及ぶことが多く、時間の流れを忘れがちになる。また、創作活動はストレスやプレッシャーとの戦いという面もあるため、太陽の動きや景色のうつろいを感じながらプレイできるのは大きな魅力だ。
レコーディングの魅力のとりこになり
独学で手に入れた録音技術
石橋さんがレコーディングエンジニアの世界に足を踏み入れたのは、1983年、25歳のときだった。
当時、石橋さんはアマチュアバンドのキター・ボーカルとして活動していたのだが、自分や仲間たちの楽曲を録音するために多重録音の機材を購入したのをきっかけに、レコーディングの魅力に引き込まれてしまった。
機材は“16トラックマルチ録音システム”で、当時のアマチュアレベルでは、もったいないような代物だった。
石橋さんが在籍していたバンドのメンバーは、みんなプロのミュージシャンになった。もちろん、石橋さんにもプロミュージシャンを目指すという選択肢があった。
「プロヘの道を断念するつもりはさらさらありませんでした。ただ、録音の作業のほうが自分に合っていると感じていたし、ミュージシャンは良いエンジニアになれるという自信があったんです。いまでもエンジニアになったからといって、裏方に回っている気持ちはありません」
一般的にレコーディングエンジニアを目指す人は、専門の学校に入るか、プロの弟子になって修行を積む。しかし、石橋さんはまったくの独学で知識と技術を身につけてきた。メジャーアーティストのレコーディングに立ち会う機会はあったが、わからないことがあれば、その都度、本を読んで研究してきた。
「無知をいいことに、思うがままに音楽制作に取り組んでいましたね。普通のエンジニアが考えもしないような突拍子もない方法で録音したりもしたけど、今、聞いてみるとそれなりにおもしろい」