キャリア教育ヒントボックス
あのとき癒されたその場所で
誰かの思い出づくりに携われることの幸せ
東京ドームシティ 「ラクーア」企画・開発
岡元 奈穂さん
本物でありながら 気軽さを追求した空間
こうして完成した「ラクーア」は、異質な3つの要素が融合した、まったく新しい空間に仕上がった。そして随所に感じられるのが、“本物へのこだわり”だ。
スパは泉質が良く、効能が高い温泉を提供するために、地下1700メートルまで掘削した。天然温泉を使用したスパとしては都内最大級だ。露天風呂、ジャグジー、バブルバス、サウナなどの設備も充実している。女性が化粧品の準備をしなくてもいいように、スパ内にコスメティックバーと呼ばれるコーナーを設置すること。これはカネボウ、資生堂とのタイアップで実現。
また、下着も自販機で買えるような安物ではなく、専門店に負けない商品を揃えることにこだわった。いずれも岡元さんたち若い女性が主張し続けた成果だ。
さらに、女性が身支度を整えるパウダールームの鏡の種類を充実させたり、設計の女性も交え、何度も検討を重ねたことで、独自の工夫が生み出されていった。
岡元さんは、
「OLさんが会社帰りに、ふと思い立って立ち寄ってもいいように、女性ならではの心遣いがほどこされています。このほかにもプロジェクトでは、私たち若い女性の意見が尊重されました」
と胸を張る。
アトラクションは世界で初めてセンターレス観覧車を採用。そして、観覧車の中心を突き抜けるのが、時速130キロの超大型ジェットコースター。これもスイスから輸入した世界トップクラスの性能を誇るコースターである。
約70のショップ&レストランが集まるショッピングモールもバラエティ豊かなラインナップとなっている。ショップは有名アパレルブランドがある一方で、比較的リーズナブルな価格帯の店も多く、レストランも注目の店が集まった。
「お洒落で本物志向の施設やショップがそろいましたが、それでも肩肘張らない感覚が演出できていると自負しています。いつ、どんな時間に訪れても楽しめる。そんな人々の生活にとけ込んだ気軽な感覚を大切にしています」
実際、ラクーアではOLが中庭でランチを楽しんだり、ビジネスマンが仕事の途中でベンチに腰掛け、噴水を見ながら休憩したりといったシーンが多く見受けられる。特別な利用動機がなくても、ふと立ち寄った空間で、リフレッシュを楽しむ。そのなかに買い物があり、食事があり、リラクゼーションがある。
年間来場者数は800万人を見込んでいたが、オープン1カ月で、すでに123万人を記録。プロジェクトチームの狙いは見事に的中したようだ。
お客様の喜ぶ顔を見るのが
この仕事の最大のやりがい
岡元さんは大学時代、放送研究部に所属し、3年生の時からラジオ番組のパーソナリティやサンシャイン60などの施設でお客を前にしたDJを経験した。4年生になって就職活動をスタートしたとき、はじめは放送関係の仕事に進むことを考えた。
「でも、ラジオの仕事とDJを比べたとき、DJの仕事のほうに、強いやりがいを感じている自分に気づいたんです。それは直接お客様の反応を感じることができるから。私は自分の仕事で誰かが喜んでいる姿を見ることに幸せを感じるんだなって、はっきりと認識することができました」
そこで、あらためて資料を調べてみると、東京ドームという会社に目がとまった。そしてその瞬間、学生時代の記憶が鮮明に蘇った。
友人に「チケットが余っているから」と誘われて、東京ドームで開催された外国人アーティストのコンサートに行った時のことだ。アーティスト自体にはあまり興味がなかったが、コンサートには深い感動を覚えた。
「パフォーマンスもさることながら、東京ドームという空間の素晴らしさに圧倒されたんです。こんなに広い場所なのに、会場全体がこれまで経験したことのない一体感に包まれていくのを肌で感じて、特別な空間だな、と思ったんです」
さらに調べてみると、大学時代に友人といくどとなく通った後楽園ゆうえんちも、東京ドームの経営であることを知る。
そして、決め手となったのは、先代の保坂誠社長が「球場に屋根をかけるのが自分の夢だった。 その中でお客様が喜んでいる姿を見ると、涙が出るほどうれしい」と書いた一文だった。
「自分が楽しい思い出を作ってもらった場所で、今度は誰かの思い出をつくる仕事に携わる。それは私にとって、とても魅力的でした。そして、その夢がラクーアの開発に携わることで実現できたことは本当にラッキーだったと思っています」
岡元さんは今年5月、広報グループに異動。現在はラクーアを中心に東京ドームシティ全体の広報活動に従事している。
今年で入社6年目。現在の岡元さんにとっての最大の目標は、広報のスペシャリストになることだ。
「開発の流れを知っているし、ラクーアに対する情熱や愛情は人一倍あるので、PRには力が入ります。3つの施設が融合したことで生まれるラクーアの魅力をしっかり伝えていきたいと思っています。そして、東京ドームシティにはドーム、ホテル、遊園地など、多角的に楽しめる魅力がいっぱい詰まっています。みなさんに新しい東京ドームシティを発見してもらうための情報をどんどん発信していきたい」
人の思い出づくりにかかわりたい、という純粋な気持ちで選んだ仕事。だからこそ一生懸命に打ち込める。与えられたフィールドで、常に自分の夢に向かって進む岡元さんは、初夏の陽光にも増して、キラキラと輝いて見えた。
PROFILE
岡元 奈穂(おかげん・なお)
岡山県出身。慶應義塾大学を卒業後、1998年に東京ドーム入社。趣味は海外旅行。
「学生時代には東南アジアやインドも旅しました。今でも韓国へ一人旅に出ることも。リフレッシュできるし、新しいアイデアを得ることも多い。おすすめですよ」。