キャリア教育ヒントボックス

あのとき癒されたその場所で
誰かの思い出づくりに携われることの幸せ
東京ドームシティ 「ラクーア」企画・開発
岡元 奈穂さん

今年5月1日、東京ドームシティにエンタテイメント型商業施設「ラクーア」がオープンした。

スパ、アトラクション、ショップ&レストランの3つの要素が融合した、全国にも類を見ないまったく新しい空間だ。岡元(おかげん)奈穂さんは、この施設の企画・開発を手掛けた。

新入社員でありながら大型開発の最前線に

手がけた「ラクーア」の前で

思わず涙があふれてきた。

東京ドームシティに「ラクーア」がオープンしたその日。岡元さんはオープニングセレモニーやマスコミの取材対応などで、朝から忙しく働いていた。

ふと一息ついた瞬間、中庭を歩く人々の楽しそうな笑顔が目に飛び込んできた。
『ラクーアって楽しいね』。 そんな声も聞こえてきた。岡元さんはプロジェクトチームの先輩に携帯電話をかけてこう言った。
「ねぇ、すごいよ。すごいよ。お客様が本当に喜んでいらっしゃるの…」

あとは言葉にならなかった。立ち上げプロジェクトに携わって5年。その間には不安も迷いもあった。オープン前1カ月は、平均睡眠時間4時間の状態で、文字通り眠る間も惜しんで働き続けた。

しかし、そんな苦労など、嘘のように吹き飛んだ。これまでの人生で最大の達成感だった。喜びで胸がいっぱいになった。

岡元さんがラクーアの企画・開発プロジェクトに携わったのは、今から5年前の1999年1月。
当時、後楽園ゆうえんちの旧コースターランドでは、施設の老朽化に伴うリニューアル計画が持ち上がっていた。

この空間をどう活用すべきか。施設を運営する東京ドームは、その大枠を検討するために各部署からメンバーを集め、約20人の委員会を設置した。岡元さんはそのメンバーの一人に選ばれたのだ。

新入社員としてドーム部で日本ハムファイターズの球団窓口を担当していた岡元さんは、自分が大型開発に携われることに胸が高鳴った。
「それまで東京ドームの10周年記念イベントにスタッフとして参加したり、東京ドームホテルのウエディングプランをレポートにまとめて提出したりといった経験を通して、企画という仕事には興味を持っていました。だから委員会のメンバーに選ばれたときは本当にうれしかったし、大きなチャンスだと思いました」

思ったとおり、委員会での活動は刺激的だった。週1回程度のペースでミーティングが開かれ、メンバー各人は毎回課せられたテーマに沿って自分の意見を出し合う。
「通常の業務をこなすかたわら、1週間でマーケティングの基礎に関する分厚い本を読まなくてはならなかったり、休日は街に出て参考になるショップやレストランを見て回ったりと、プライベートにずいぶん浸食していましたね(笑)。それでも、企画を考えることが楽しくって、まったく苦になりませんでした」

勤務経験にかかわらず、自由に発言できる雰囲気があったので、岡元さんも積極的にアイデアを出していった。

このときに岡元さんが提案した、入場料を無料化する《フリーゲート》や、《女性が一人でも立ち寄れるレストラン》は、のちに正式に採用されることとなる。とくにフリーゲートは、球団窓口の仕事のなかで、野球観戦に来たお客から「球場からアトラクションが見えるのに、試合終了後に無料で入場できないのが残念」という声を聞いていたことが大きなヒントとなった。

多くのサポートを受けながら
自らの感性をよりどころに

ラクーアについて説明してくれる岡元さん

1999年9月、委員会はプロジェクトチームとして正式な部署として設置され、岡元さんもドーム部から異動する形でチームに参加することとなった。

プロジェクトチームでは委員会で提案されたさまざまなアイデアをもとに、基本コンセプトを策定することが最初の仕事となった。

まずはメインターゲットをどこに置くか。東京ドームシティは野球場のイメージが強く、男性的な空間として認知されていた。男性的な面を押していくのか、それともターゲットを女性に拡大するのか。そこが重要な選択となった。

「その頃、東京ドームホテルのオープンが決まっていて、シティ全体としてのターゲット層が広がることが予想されました。そこで、街としての回遊性を高めるためにも、25歳から35歳の社会人女性をメインのイメージターゲットに設定しました」

そのうえでターゲット層に対するニーズ調査を実施したところ、『癒されたい』『リフレッシュしたい』というキーワードが浮かび上がってきた。さらに、プロジェクトチームがこだわったのが「東京の都心部だからこそ訴求できる施設づくり」という点だった。これらの要素を統合し、メインコンセプトは「東京の真ん中でリフレッシュを楽しむ」に決定した。

それではどうすればリフレッシュしてもらえるのか。

まず出てきたアイデアがスパ施設だった。東京の真ん中で、女性が楽しめる本格的なスパを提供できれば、まさに癒しの空間となるに違いない。ストレスを発散してもらうためには、アトラクションも欠かせないという意見が出た。

そして、やはり女性がリフレッシュするのはショッピング。岡元さんが主張した「女性が一人でも気軽に入れるレストランの充実」も重要なテーマとなった。

「スパならば専用の施設がたくさんあるし、アトラクションも丸1日かけて遊べるような場所が都内にも近隣にも存在します。また、ショッピングや飲食ならば、銀座や新宿でも楽しめます。ラクーアは、それらが有機的に結びつくことで、個性が発揮できると考えました。チーム内で何度も検討を重ねた結果、3つの要素を融合させるには、すべての施設が一級品であることが不可欠だという結論になりました」

楽しんでいる人たちの姿を見ると喜びが…

この方針の下で、施設の開発やショップの選択に入っていった。ただ、その過程で迷いが生じることも少なくなかったという。

「プロジェクトチームの誰もが感じていたことでしょうが、『本当にこれでお客様に満足していただけるのか』と気弱になることもありました」

そんなときは「自分の感覚や感性を大切にしなさい」というプロジェクトチームの上司の言葉が支えとなった。
感性を磨くために、休日には友人と街に出かけ、みずみずしい情報を直接吸収するように努めた。

また、プロジェクト以外の部署の先輩から多くのアドバイスを受けたことも大きな助けとなった。
「どう進めていいのかわからなくなったとき、『助けて!』という感じで相談に行くと、社内の誰もが適切なアドバイスを与えてくれました。各部署の業務について勉強ができたこと。そして、プロジェクトは社外スタッフを含めた多くの人が協力し合うことで進んでいく過程を肌で感じられたのは、今回の開発に携わった最大の収穫のひとつです」