中学・高校の実践事例
広がる中学ロボコンの輪 その発信地を訪ねて
〜敗者なき競い合いが学校を変える〜
八戸市中学校ロボットコンテスト
愉快・痛快・笑顔
車検が終わると開会式が始まった。開会の挨拶に続き、下山先生が大会ルールの説明を行う。もちろん、生徒たちのためではなく、大会を見守るギャラリーに向けた説明だ。ルールを理解することで、生徒たちの工夫が理解でき、また一段と競技を楽しむことができるわけだ。
いよいよ競技のスタート。緒戦ではまだまだ戦い方もぎこちないチームが多いものの、会場に慣れ、自分たちなりの戦い方が見えてきたチームは、次第に調子を上げていく。一方では、本来の力を発揮できずに敗退するチームも多い。限られた競技時間の中では決着がつかない試合もある。この場合はジャンケンで勝敗を決するのがルールだ。何か月にもわたる苦労が報われるか否かが、ジャンケンの勝ち負けで決まってしまうというのは、第三者の目から見ても残酷に思えるが、生徒たちの様子はあくまで朗らかだった。
勝っても負けても、またジャンケンで決しようと、他人に責任転嫁をしたり、ふてくされる生徒の姿はない。自分と、自分の作ったロボットが精一杯に頑張った証は、他でもない自分の中にあるからに違いない。
特許認定を受けたロボットはポイントで優位に立てるとは言っても、それだけで勝敗が決するわけではない。 「アイデア倒れ」に終わるロボットもあり、それがまたギャラリーの盛り上がりを誘う。そんな中、最終的に決勝まで勝ち進んだ2チームは、共に特許を取得していたものの、好対照の顔ぶれとなった。
かたや、すでにそろって八戸高専への推薦入学を決めたという男子3人組による強力ロボット2体。ここまで圧倒的な強さを見せてきた。
一方これに対するは、絶やすことない笑顔が印象的な女子2人組が操る愛らしいロボット2体。こちらも特許を得たものの、残念ながらその威力は本番で発揮できず、決勝まで自力で得たポイントはなんとゼロ。ところが持ち前の強運とあきらめない姿勢が功を奏してか、特許による1ポイントを武器に、敵失も手伝って驚異の決勝進出を果たしたのだった。
この異色のカードとなった決勝を前に、会場の熱気は頂点に達した。
ロボコン現象
大会の熱気は、会場に多くの人を引きつけて放さない。3階までの大きな吹き抜けの空間は、最上階までギャラリーで取り巻かれている。
中学ロボコンに引きつけられるのは同世代ばかりではない。地域の子どもたちに与える影響も見逃せないだろう。
その中には、明らかに中学生とおぼしき数人のグループが見受けられた。茶髪にピアスといういでたちの彼らは、競技に打ち込む同世代の生徒たちの背中に無言の視線を送り続けていた。そのように打ち込むもの、打ち込む場がない自分たちの今を思っていたのだろうか。
いずれにせよ、そうした彼らにも、この大会が何かを感じさせていることだけは確かだろう。
大歓声の中の決勝戦では、男子3人組が勝利を収めた。しかし、その喜びは彼らだけのものではない。敗れた女子2人組の笑顔は一層まぶしく輝き、会場に満ちあふれた歓声は、競技に応援に力を尽くした生徒たち全員をたたえるものだったからだ。
ロボコンはそれが競技であるがゆえに誤解を招くことがあると下山先生は言う。しかし、競技であるからこそ、参加する生徒はルールの中でベストを尽くす努力をし、より高い目標に向かって自分の力を伸ばしていくことができる。その活動の中で、自分の手で物を生み出す喜びを実感できれば、生徒たちにとって勝敗はもはや二の次となるのだ。競技という形に徹するからこそ競技の枠を乗り越えることができる。勝っても負けても大きな学びを得ることができる。逆説的だが中学ロボコンの神髄はここにあると感じられた。
表彰式では、競技での優勝に続いて、アイデアやチームワーク、競技のアピール度などを総合的に勘案したロボコン大賞も発表された。今大会では結果的に優勝チームがロボコン大賞をあわせて受賞する結果となったが、このようにいくつもの視点で生徒たちの取り組みを評価し、それを競技での優勝より高く位置づけることが、中学ロボコンの精神を端的に示すポイントだろう。
◆八戸市中学校ロボットコンテスト
八戸市中学校文化連盟技術家庭科専門部の主催で行われている、市内公立中学校合同のロボットコンテストも今年で第3回。参加校は市立中学校22校中9校からの39チームにのぼった。競技やロボット作りの取り組みが陳腐化するのを防ぎ、生徒たちの創造性を引き出すため、競技テーマやルールは毎年変更されている。大会会場となった複合商業施設『ラピア』は、市内の中心的なショッピングセンターであり、こうした場所で行われるこの大会が、いかに市民の間に認知されているかを示している。中学ロボコンの生みの親である下山大(しもやま・ゆたか)先生を中心とした取り組みの成果だ。