中学・高校の実践事例

ロボット作りが導く心の成長 
〜競い合いの向こうにある達成感・充実感を目指して〜 熊本県・御船町立御船中学校

御船中学校

学や高専での取り組みがテレビなどでも報じられ、幅広い市民権を得つつあるロボットコンテスト(通称ロボコン)。そうした報道を通じて接する若者たちの瞳は、ものづくりに打ち込む者に共通の輝きに満ちている。そして今、中学校でも大学・高専とは違う独自のスタンスからロボコンへの取り組みが広がりはじめた。熊本県からのレポートをお届けしよう。

文化発表会での公開競技を訪ねて

私たちが最初に御船中学校を訪ねたのは日曜日。
しかし、文化発表会開催中の御船中体育館には生徒たちの歓声と、地域の人たちの笑顔があふれていた。

文化祭で行われた公開競技の様子

御船中学校では技術の大塚先生の指導の下、平成15年からロボット作りを授業へ取り入れてきた。この日は、文化発表会の場を借りて、その取り組みを学校内外に紹介すると共に、間近に迫ったアイデアロボコン県大会への応援を呼びかけるため、こうした機会が設けられたというわけだ。

液晶プロジェクターを使った、取り組みやルールの解説を取り混ぜて行われる公開競技に参加するのは、選択技術を履修する生徒たち。自分たちが作り上げてきたロボットをアピールする訴えは声高でこそないが、これまで手塩にかけてきた愛機への自信が感じられるものだった。

本番さながらの競技を繰り広げる手作りロボットを見つめる地域の人たちの温かい声援、そして、これから御船中に進学するのであろう子どもたちもまた、目を輝かせて見入っている。
  大人から子どもまで、その気持ちをこんなにも引きつけるロボット作り。その魅力はどこにあるのだろうか。

生徒たちにもの作りの喜びを

大塚芳生 先生

そもそも大塚先生が技術の授業にロボット作りを取り入れたのは、エネルギー変換を学習する教材としてだった。しかし、実際に取り組みを進めてみると、それまで不登校や家庭環境に悩み、自分に自信の持てなかった子どもたちが生き生きと自発的に製作に打ち込むようになったという。そして今では、子どもたちにそうした体験を与えること自体が取り組みの目的となった。

「技術の教師ですから、もちろん自分自身、こうしたロボット作りが好きなことは確かです。ですが、それだけだったら、限られた授業時間の中にロボット作りを取り入れようとは思わなかったでしょうね」と大塚先生。
   「製作技術を教えるだけでなく、自分たちの手で物を作ることを通じて、物に対する接し方、物事の考え方、仲間と力を合わせる素晴らしさなど、大げさに言えば生き方を学んでほしいと考えたんです」

とは言え、ロボット作りにはお金がかかる。また、大会前ともなると、取り組みの時間も授業時間内では間に合わなくなってくる。そのため、学校の支援や保護者の理解が欠かせない。

大塚先生は、前任校でロボット作りの取り組みを始め、この御船中に転任してからも、校長先生をはじめとする校内の支持に支えられて活動を続けてきた。保護者に対しては、理解を求めるプリントを送って了解を得ていくと共に、折に触れて活動の様子を伝えていくことに努めている。

 

グループ全員で手塩にかけてロボットを作る

こうした積み重ねが実って、現在では取り組みへの理解にとどまらず、生徒の送り迎えを買って出てくれる保護者など、より積極的な支援が得られるようになってきたという。

「ロボット作りの魅力が生徒たちを引きつけ、その暮らしぶりが変わっていく。それを目にした親御さんや、周囲の人たちもどんどん引きつけられていく。そんな効果があるんだと思いますよ」
大塚先生はそう話してくれた。