小学校の実践事例
情報モラル学習 学びの糸を紡いで
〜 学年間交流・家庭浸透を織り交ぜた立体的実践 〜
埼玉県・埼玉県春日部市立上沖小学校
絶え間ない進化と変化が続く情報社会。
そのただ中にあって、学校での情報教育はいかにあるべきなのか。
一般企業での勤務経験を持つ教諭が取り組む、
今、子どもたちの安全を確保するための実践を追った。
まず
隗より始めよ
「つたわるねっと@フレンド」を使ったウイルスメール体験を通して2年生にその危険性を説明する5年生たち。
お兄さん、お姉さんたちの説明を受ける2年生も真剣そのものだ。
今回取材をさせていただいた上沖小5年1組の鷲林潤壱(わしばやし・じゅんいち)先生は、民間企業への就職を経て、通信教育で教員免許を取得、教職の道へ進んだ経歴の持ち主だ。情報教育に積極的に取り組む先生に、こうした経歴を持つ人は決して少なくないが、鷲林先生のユニークなところは、社会人時代にはパソコンの経験が皆無で、教職に就いてからパソコンに接するようになったことだろう。
「会社勤めのときには、部内にパソコン専任のスタッフがいて、文書作成は一切お任せだったんです。 教師になって初めてまともにパソコンと向き合うようになったのですが、これが楽しいし、奥深いので今さらながらハマってしまったというわけですね(笑)」
その後、内地研修の機会が巡ってきた鷲林先生が、迷わず情報教育をテーマに選んだのは当然の成り行きだった。しかし、この研修もまた鷲林先生に予想外の変化をもたらすことになる。
「情報教育を学びに行って、持って帰ってきたのは情報モラル教育だったんです」と鷲林先生。
「コンピュータやネットワークがもたらす可能性は本当に大きなものですが、それだけに、使い手のモラルが育っていないと、大きな危険につながることが分かったんですね。私が企業人を経験していたせいもあるかもしれませんが、実社会で生きていくために大切なのは、スキル以上にモラルやコミュニケーションだと強く感じました。これは今すぐに取り組まなくては!と思ったんです」
学びを
ふくらまそう
授業の冒頭、鷲林先生が2年生とネットの接触実態を挙手で確かめた。1〜2割はメール送受の体験もあり、接触度の高さとモラルの必要性がうかがえた。
昨年春、現場に復帰した鷲林先生は、早速その思いを形にしていった。担当者になった校内研修で情報モラルをテーマに取り上げ、先生方にその重要性を意識させる一方、自ら担任する5年1組では、総合的な学習の時間を使った情報モラル学習をスタートさせた。
民間企業では商品企画や広報を担当していたというアイデアマンの鷲林先生だけに、その取り組みも戦略的。5年1組の学習は学級内にとどまらず、学年末にはその内容を子どもたち自ら2年生にレクチャーするという計画だ。「ふれる、つかむ、調べる、まとめる、ひろげる」という、同校の学習プロセスを最大限に押し広げて子どもたちの学びを深め、さらにはこの取り組みを学校ぐるみのものへ広げていこうというもくろみがそこにある。
「自分たちが学んだことを下級生に伝える中で、より理解が深まることはもちろん、コミュニケーション力も高まります。そして下級生にとっても、先生ではなくお兄さんお姉さんに教えてもらうという貴重な体験から学ぶことができると考えたんです」
少し前なら、2年生に情報モラルというのは早いのではないかと思われるところだが、そうでなかったことは、この後の授業ですぐ明らかになった。
以前は食品メーカーに勤務し、商品開発や広報といった仕事に携わっていたという鷲林先生。30歳を目前にして、以前からなりたかった教師の道を志し、通信制の学校で教員免許を取得、採用試験を突破して教職に就いた情熱の持ち主だ。「社会で役立つ本当の力を、子どもたちに身につけてほしいと願っています。情報モラルは、これからの社会に欠かせない力ですよね」