小学校の実践事例

ありがとう、いのち。生きようとする力のすさまじさ 
〜学習支援ボランティアが生み出す新しい授業の形〜
東京都・立川市立若葉小学校

生きようとする力のすさまじいまでの抵抗

発言を求められ、挙手する子どもたち

発言を求められ、挙手する子どもたち。さまざまな感動が子どもたちの口から発せられる。

実験を終え、素早く片付けて着席した子どもたち。福原先生は子どもたちに、解剖実験で気付いたことや思ったことを発表するよう促した。

「脳みそが小さかった」「水晶体がきれいだった」「切り離した心臓が長時間動いていた」……などなど、次々と発言がなされる。

「胃袋がなかった」という気付きには、福原先生も感心。今回は草食魚ゆえにちゃんとした胃袋はなかったけれど、肉食魚は立派な胃袋を持っていること、人間の胃も赤ちゃんのころは胃袋としての形をなしていないことなどを説明した。

そして「肉が硬くて切りづらかった」という感想が出ると、福原先生は大きくうなずいて、次のような質問をした。「正直、切れないハサミだなぁ、と思った人!」 約半数の手が挙がる。福原先生は手を下ろさせて、子どもたちを見回した。

「肉が硬いのは、生きている証拠なんです。生きて、緊張している筋肉は硬いんです。君たちが解剖したコイは、大切に育てれば10年も20年も長生きします。今日は、そんな尊い命をいただいて授業をしました。生きようと一所懸命だったコイに対して君たちができることは、今日の実験結果をきちんとまとめて、後に残すことです」

子どもたち一人ひとりがうなずくのを見て、福原先生はボランティアの方々にもお礼を言いましょうと子どもたちを後ろ向きに座らせる。ボランティアの方々も1人ずつ感想を求められ、子どもたちの真剣さ、熱心な様子に感心したこと、片付けも早くて素晴らしかったことなどが伝えられる。子どもたちも満足そうだ。

福原先生が、次の時間はパソコンで今日の実験のレポートを作成すると告げて、その日の授業は終了。翌週、我々は再び若葉小に足を運んだ。  

結果をまとめて思いを残す

解剖実験を通じて学んだことを思い思いにまとめる

『一太郎スマイル3』でレポート作成中の画面。タイトルやその処理、写真のあしらい方に大きく個性が表れる。

場所は理科室からニコニコルームと名付けられているパソコン室へ。「こんにちは!」と元気なあいさつがうれしい。

福原先生から操作手順の説明を受けた後、子どもたちはグループごとにパソコンの前に座ると、早速写真選びに取りかかった。数多くの写真はデジカメごとにフォルダ分けされていたものの、ボランティアの方々の番号札の工夫によって、自分たちのグループの写真であることが一目で分かる。「この写真、使う?」「これは入れたいよね」グループ内で話し合いながらのピックアップ作業だ。そうして写真を選んでいるうちに、子どもたちの中では解剖実験当日の気づきや思いがよみがえっていく。

写真をより分けた後は、いよいよ『一太郎スマイル3』にそれらを貼り付け、レポートとして仕上げる作業となる。『ジャストスマイル』には慣れ親しんでいたという子どもたちだが、『3』は本日初。操作に迷うのではという福原先生の心配をよそに、子どもたちはほとんど違和感なく作業できているようだ。

福原先生が用意しておいたテンプレートをそれぞれ自分流に改造しながら、レポートタイトル、実験目標、必要な道具、解剖の手順、分かったことなどを打ち込んでいく。選んだ写真に添える説明書きもお手のもの。「実は、『スマイル』は使いやすいからと、自宅で買って使っている子どももいるんですよ」 手慣れた子どもたちの様子に驚いていると、福原先生がそう耳打ちしてくれた。

ある程度レポートとしての形になったところで、この日は時間切れ。しかし、きちんと仕上げたいという子どもたちからの熱望により、福原先生も何とか時間を作ると約束して授業を終えた。

地域の教育力で子どもたちをはぐくむ

地域の教育力−それが若葉小のキーワードだ。地域の皆が学校に関心を持ち、子どもたちに目を配り、地域ぐるみで子どもを育てる。

「誰かが見てくれている、と思うと、子どもたちも安心するようですね。気にかけてもらっていることで、子どもたちも積極的に地域参加へと向かっています」

若葉小では、老人保健センターや特別養護老人ホームへの慰問活動、団地の清掃、お年寄りのゴミ出しの手伝い、保育園・幼稚園等の園児の世話、地域のショッピングセンターや商店でのお手伝いなど、地域での活動を活発に行っている。ほかにも、毎月第3金曜日に団地のお年寄りと一緒に給食の時間を過ごすなど、学校の内外でさまざまな催しがなされている。

「地域の目が学校に向き、地域と学校が密接につながることで、学校は地域にとって『なくてはならない存在』になる。誰かに必要とされていることを、子どもたちも敏感に感じ取ります」

顔を合わせればあいさつをし、自分の子どもでも他人の子どもでも、悪いことをしていれば叱り、良いことをしていれば褒める。そんな古き良き、地域ぐるみの教育体制が、ここ、若葉小を囲む地域には今も息づいている。

取り組みの流れ

 

◆東京都立川市立若葉小学校

立川市の北東部に位置する若葉小。道路を挟んだ向かいは小平市となる。学区には大きな団地があり、児童も団地住まいの子どもが多い。夏の日差しさえも遮ってくれるほどに大きく育ったケヤキ並木が、その団地群の歴史を物語っている。2年生のみ2学級で、ほかは単学級。

取材/西尾真澄 撮影/西尾琢郎
※本文中の情報は、すべて取材時のものです。