小学校の実践事例
メディアの活用で意欲を高める 育成学級における取り組み
〜目的に応じたメディア選択で子どもの力を伸ばす〜
京都府・京都市立桂坂小学校
メディアを活用した交流学習で コミュニケーション能力を身に付ける
2002年度、やまゆり学級では他校との交流学習に取り組んだ。育成学級の子どもたちは、コミュニケーションをとるのが困難なことが多く、これまで学校間交流の実践は難しいとされていた。
年度の初めに、京都市立南太秦小学校の育成学級“くすのき学級”から、「野菜作りを通して、交流をしませんか」という誘いがあった。桂坂小学校のやまゆり学級でも、野菜作りに取り組んでいたこともあり、交流学習に挑戦することになった。
そして『他校の児童との交流を通じて、コミュニケーションの力を育てる』『コンピュータなどの、教育メディアを活用して、自分を表現する力を育てる』という目標が掲げられた。
交流は南太秦小学校のくすのき学級に通っている当時5・6年生の子どもたち2人と、桂坂小学校のやまゆり学級の当時5年生の女の子が中心となって進められた。
やまゆり学級の女の子はひらがな、カタカナに加えて漢字も少し書くことができ、コンピュータに触れることも好きだ。この力を活用して、メール交換を中心に交流をした。ただし、一般のメールソフトによるテキストのやりとりだけでは、交流をしている実感が湧きにくい。そのため、『はっぴょう名人』で作成した手紙や、デジカメで撮影した野菜の写真をメールに添付してやりとりした。さらに顔写真も貼り付けて、相手がいることを意識させた。
「最初は下書きをして、それをパソコンに入力するという方法だったのですが、次第に直接文章が入力できるようになりました。3〜4カ月経つ頃には文章量も増え、手紙を書くスピードも速くなりました」
と、山本先生。 やまゆり学級の女の子は、「先生、まだ返事こないの?」と、メールの交換を楽しみにしていたという。
また、テレビ会議での顔合わせの際には、事前に話す内容を原稿用紙に書いて用意させた。ところが、途中から原稿なしで話が進み、相手の質問に対して、たどたどしいながらも自分の判断でていねいに答えることができたという。
周囲にいた先生たちは、予想外の彼女の様子に驚かされた。
「感動的でした。私たちが思っている以上の能力を発揮したんです。“彼女に今できるのはここまでだろう”と無意識のうちに決めつけていたんですね。それを、軽く超えていました」
と、山本先生は当時の様子をふり返る。 テレビ会議に至るまでに、メールを活用してコミュニケーションをとるなかで相手意識が生まれ、その相手と画面を通じて顔を会わせることができたのがうれしかったのだろう。
さらに、実際に顔を合わせての交流を大事にするため、学期に一度か二度はお互いの学校を訪ね合うことにした。7月に実施された交流会では、実際に会うのは初めてだったにも関わらず、笑顔で自己紹介ができた。相手校の子どもは最初はうまく話せなかったが、10分、20分と時間が経つとうち解けることができた。
やまゆり学級の女の子は、別れた後も「楽しかった」「また来てくれるかな」と、次に会うのを楽しみにしていたという。
野菜の収穫期には、それぞれが育てたサツマイモやジャガイモを持ち寄ってパーティを開催。焼き芋やポテトチップスをみんなで食べたり、歌をうたったりと盛り上がった。
「野菜パーティはひとつのポイントです。交流のテーマは“野菜作り”ですから。この日に向けて子どもたちの交流意識を高めました。メールやデジカメを利用するのも、実際に会って交流をするための準備をする道具なんです。育成学級の子どもたちへの指導は、あくまでも活動が先にあって、その支援の道具としてメディアを活用します。目標をぶれないようにしておくことが重要です」
と山本先生は語る。
この1年間の交流学習を通じて、やまゆり学級の女の子は確実に成長した。自分で考えて作ったメールが相手に届き、受け取った子どもから返事が来たことは、彼女にとって初めての経験であり、大きな自信につながったのだ。女の子はクラブ選択の際に、迷わずコンピュータクラブを選んだという。
また、テレビ会議は相手の質問に応じて返事をしたり、自分の気持ちを伝えるといったコミュニケーション能力の育成にも効果的だった。
育成学級におけるメディア活用の実践は、まだ少ない。やまゆり学級の取り組みは、メディアの活用が育成学級の子どもたちの表現方法の一つとして、強力な支援になるということを立証するものとなった。
コンピュータの普及に伴い変化する
子どもたちのメディア意識
桂坂小学校では「コミュニケーションの育成」をテーマに、ITを活用した研究に取り組んでいる。なかでも力を入れているのがプレゼンテーションだ。
さまざまな場面で発表する機会を設け、伝える力を育成。修学旅行など校外活動の際には5年生が体験したことを4年生にプレゼンテーションするなど、異学年の交流も盛んだ。
3年生以上は週に1時間、情報の時間を設定。6年生までの4年間、学年ごとに目標を立てて系統的に学習することで、子どもたちはプレゼンテーション能力を身につける。
「プレゼンテーションだけでなく、文章入力やインターネットの活用法など、情報活用力を総合的に身に付けて、中学校へ送り出してあげたいですね」と、山本先生。
また、5年前から情報教育に取り組んできた山本先生は、最近子どもたちのメディアに対する意識に変化が起きているという。以前は、パソコン室に来るだけで喜んでいたが、家庭にもブロードバンドが普及し、新鮮みが薄れてきているのだ。
「ただコンピュータを使うのではなく、どの場面でどう取り入れると有効な学習につながるかということが重要になってきました。高いレベルでの“授業をデザインする力”が、求められてきています」
また、子どもたちのパソコンに対する知識が増えたことで、有害情報へアクセスしたり、ソフトをアンインストールするといった、いたずらをするなどのケースも出てきた。
「メディアの影の部分において、小学校でも管理をするのが、難しくなっています」
と、課題を指摘する。
「そういった問題行為をシステム的に防ぐことは、完全にはできないと考えています。やはりモラル的な指導や、メディアへの接し方、判断する力の指導が大切ですよね。これは、コンピュータを使った指導に限ったことではありませんが。基本的なメディアリテラシーとは、そういったものだと思います」
情報教育の過渡期を迎え、先生たちにとっての課題も変化しつつあるようだ。
遠足のときには、近くの嵐山を訪れることもできる、自然に恵まれた地域。3年前に、先進的教育用ネットワークモデル地域研究校の指定を受けた。光ファイバーを導入し、メールやインターネットを活用した授業にもいち早く着手。すぐそばに「国際日本文化センター」がある関係で、梅原猛氏や河合隼雄氏など、毎年さまざまな分野の専門家が授業に訪れる。児童数828名。