小学校の実践事例
高校と小学校のコラボレーション テレビ会議システムでプレゼンを交換
〜『はっぴょう名人』でプレゼンテーション資料を作成〜
広島県広島市立白島小学校 / 同・基町高等学校
笑顔あふれる和やかな30分 教える側の視点を得た高校生
高校生の出張指導から10日後、白島小学校からのプレゼンテーションの日がやってきた。 基町高校ではこの日、吹奏楽部もテレビ会議システムを利用した実験を行うため、機材を音楽室に設置した。
午後4時、指導に参加した5人のクラブ員が音楽室に集合。接続を終え画像と音声が相互に行き来するのを確認してから、いよいよ小学生のプレゼンテーションがスタートする。
ロボットの顔に見える校舎の一部や、窓を目、柱を鼻に見立てた壁など、子どもらしい発想で捉えた、楽しい画像がスクリーンに映し出される。
「人の顔のように見える壁です。これは白島小のどこにあると思いますか?」
「天狗の顔にそっくりなこの道具は何に使うものでしょうか?」
といった子どもたちの質問に、高校生は手をあげて
「給食室のところかな」「体育で支柱を置く土台だと思います」
と楽しげに答を返す。両クラブとも笑顔が絶えない和やかなやりとりが続く。
この後、白島小のリサイクルクラブの発表があり、最後に基町高校インターネットクラブから白島小に指導に行ったときの様子をまとめたプレゼンテーションが紹介された。
それまで、初めてのプレゼンテーションに興奮気味だった白島小の子どもたちも、高校生の発表が始まると、一気に画面に集中。
白島小の校舎の画像を映し
「せっかくきれいな空なのに、後ろの工事中のクレーンが邪魔なので、こうしてみました」
と、次の画面ではクレーン部分を切り取った画像を表示。すると白島小の子どもたちから
「すごい! クレーンが消えたよ」
と驚きの声が上がる。こうして30分ほどの交流の時間は無事に終了した。
高校生からは
「指導に行ったときよりも、レイアウトが工夫されていました。みんなずいぶん腕を上げたみたい」「明るさや色バランスの調整といった、画像処理の方法を教えてあげればよかった」
と、指導する立場からの感想が多く聞かれた。
交流を終えて、基町高校の難波先生は「教える側の視点を持てたことは、高校生にとっても大きな実りとなりました」と満足気。白島小学校の前田先生は
「以前から、子どもたちのパソコン指導ではじめにプレゼンテーションを経験させるのが有効だと思っていました。文字入力や画像処理、お絵かきといった基本的な操作方法はプレゼン資料を作成する過程でまとめて学ぶことができますし、発表力もつきますから」と考えを語る。
そのうえで、
「本校の児童はまだプレゼンテーション資料を作ること自体が楽しくて、相手を意識していかに伝えるかというステップはこれからです。実際、プレゼンテーションのときに声が小さく、豊かに表現できない部分があったのもそのためです。しかし、相手を意識した情報発信については、今のうちから経験させておくことが大切。今後は反省会などフォローアップに力点を置いた指導を心がけたいですね」
と、次の活動へつなげる取り組みを引き続き行う予定だ。
隣同士でありながら、あえてテレビ会議というメディアを使ったことで、両校の子どもたちは、単なる対面でのプレゼンテーションとは違う、“ツールを用いた交流”という意識を持てたようだ。実際、それまでざわついていた子どもたちも、プレゼンテーションには、良い意味での緊張感を持って臨んでいた。テレビ会議システムを利用することで、オンとオフの切り替えが自然とできたのだろう。
NPO法人のバックアップで実現 地域イントラのモデルづくりに
今回の交流は、広島市を拠点に中国・四国をエリアに活動するNPO法人、中国・四国インターネット協議会の「マメdeがんす プロジェクト2」の一環として実現した。
CSIは1995年にスタートしたネットワーク利用環境提供事業(100校プロジェクト)において中国・四国地域11校のインターネット接続を担当。1998年には小中高校約10校を専用線でインターネット接続し、各学校にネットワークサーバを設置する「ネットdeがんす プロジェクト」を実施した。
続いて2001年には、学校における映像や音声を用いた遠隔会議の利用活性化法を研究する「マメdeがんす プロジェクト」をスタート。「マメdeがんす プロジェクト2」は、その成果を受けて引き続き展開している活動だ。白島小学校と基町高校のコラボレーションは、市立の学校を中心とした異校種との交流実例として選ばれた。
難波先生と前田先生は、CSIが任意団体時代にCSIの教育利用研究グループ「school@csi」で出会ったという。「ネットdeがんす プロジェクト」で、基町高校のサーバ構築を支援したとき以来の研究仲間だそうだ。 2001年に前田先生が白島小学校に赴任したとき、「せっかく隣同士なので、いずれは一緒に新しい取り組みにチャレンジしましょう」と2人で話し合ったという。
もともと両校では高小連携を推進する方針が決まっており、例えば小学生が基町高校の美術造形コースの生徒に陶芸を教わりに行くなど、さまざまな分野での交流が企画されていた。そこにCSIの企画が決定し、IT技術を利用した交流計画が一気に実現したのである。
今回のプレゼンテーションの交換で、プロジェクトはひとまず終了。今後は電子掲示板を利用した両クラブの交流を続けていく方針だ。前田先生は
「ITを利用した交流のカギとなるのは、相手を意識したコミュニケーションができるかという点。子どもたちは今回の交流を通して、相手の顔や、語り口調、自分たちにしてくれたことを十分に頭に入れたうえで、より抽象度の高いテキストによる交流に移行することになります。どんな結果につながるのか、これからが楽しみです」
と、すでに次なる展開に期待が膨らんでいるようだ。
また、難波先生は
「隣同士という地理的なメリットを最大限に利用して、今後も実際の触れ合いとオンラインの交流を組み合わせた地域イントラのモデルづくりに取り組んでいきたいと考えています」
と意欲的に語ってくれた。
子どもたちが社会に巣立つ頃、マルチメディアはこれまで以上にパーソナルなコミュニケーション手段として利用されていることだろう。そのとき、子どもたちは今回の先駆的な取り組みを、貴重な体験として思い出すに違いない。
明治35年に白島尋常小学校として開校し、平成14年で創立100周年を迎えた。IT技術を利用した他校との交流に積極的で、今年は地域の伝統芸能である囃子と踊りを、テレビ会議システムで沖縄の音楽団体によるエイサー(=伝統芸能のこと)と交流する計画もある。全校児童570人。
《写真:前田真理先生》
昭和17年に広島市立中学校として開校、同55年に現校名に。生徒数は普通科1200人。平成11年に開設した創造表現コースは120人。新校舎は広島市のピース&クリエイト事業の一環で、後世へのモニュメントとして建造された美しくモダンな設計。
《写真:難波 太先生》