小学校の実践事例
パソコンを通じて表現力のアップとコミュニケーションスキルの向上を目指す
〜『一太郎スマイル』を使ってオリジナルの旅行ガイドを制作〜
愛知県名古屋市立高木小学校
伝えようという気持ちが 表現を充実させる
今回の授業で、子どもたちが“分かりやすさ”を重視したのには、もうひとつ理由がある。
修学旅行では、子どもたちがガイド役にチャレンジした。クラス全員が、興味を持った見どころ別に10のグループに分かれ、事前に調べたことを移動のバスの中で発表する。事前の調査は教科書や本を参考にしたり、身近な人に聞いたり、あるいはインターネットを利用した。
このガイド役を務めた時に、調べたことをうまく伝えられないという、“苦い経験”をしているのだ。
その原因は、調べたことの意味を理解しないまま、引用してしまったことにあった。とくに、大人を対象にしたホ−ムペ−ジの情報は、小学生にとっては難しい漢字が使われていて、内容が理解できない場合も多い。旅行当日、子どもたちがガイドをしてみると、「意味が分かりません」という声があがったという。
もちろん、事前に指導してガイドを成功させるという方法もあったが、「言われたままに修正するのではなく、実際に“困った”という体験をするなかで、自分で問題点を見つけ、解決していく力をつけてほしいんです」と、榊原先生。
今回の授業ではガイドで失敗した経験も活かされ、自分の言葉で表現したり、心のこもったアドバイスを添えたりといった、オリジナルガイドが完成したのだ。
付箋を活用して意見を交換 お互いに刺激し合いながら作業を進める
さて、教室をみわたすと、完成間近のグループもいるようだ。
榊原先生が、「大まかなレイアウトができたという人は、印刷をしてください」と、先ほどスキャナとして使った『インタ−カラ−ステ−ションLP-8000CCH』での、印刷の仕方を説明する。「[印刷]をクリックしたら、必ず用紙を選んで、みんなが作っている“A4サイズ・縦”の設定にしてください。用紙を選ばずに印刷すると、“A4サイズ・横”で印刷されるからね」次々に、作品を印刷していく子どもたち。印刷してみると、写真と文字が重なって見にくかったり、思った以上に余白があったり、パソコンの画面上では分からなかったところが見えてくる。
「タイトルの“金閣寺”はもっと大きくしたほうがいいかな…」「この余白に、写真を入れてみたらいいんじゃない?」 先生も一緒に、アイデアを出し合う。
また、今回は大判プリンタにもチャレンジする。エプソンのマックスア−ト『PM-7000C』を使って、A2サイズで印刷だ。プリンタの前では、女の子の2人組がじっと用紙の排出口を見つめている。「出てきた!」「お〜、かっこいい!」 タイトルは“三十三間堂の中身”。大胆に使った、千手観音や風神・雷神の画像が鮮明に印刷された。
A2サイズで印刷された作品は、教室の前に掲示される。ここで、先生が注目を促し、ひとつの作品を取り上げて解説をする。
「これは、“映画村”というタイトルが目立つように作ってあるから、なにを紹介しているかが一目で分かります。いろんな大きさの写真を使っているし写真の位置も見やすいよね。これを参考に、工夫してみよう」 子どもだちから出てきたアイデアは、なるべくみんなに紹介して刺激を与える。
さらに先生は付箋を取り出して、「前に掲示した作品に対して、付箋に意見を書いて貼ってみよう」と提案する。子どもたちは、「この漢字には、読み仮名を付けてほしいです」「もう少し説明があった方がいいと思う」などの意見を貼っていく。
文字にして残すことで、口頭で意見を交換するのとは違って、子どもたちはじっくりと内容を検討することができる。
こうして修正を加えながら完成した作品は、最終的にパネルにして来年まで保存される。榊原先生は、クラス内でのプレゼンテーションも計画中だ。
コンピュータを通じてコミュニケーションのスキルアップを目指す
今回の授業では、来年の6年生に紹介するというテーマを設定したり、作品に付箋を貼り付けて意見を交換するなど、コミュニケーションの場が随所に設けられた。榊原先生は、「パソコンのスキルアップは副次的なもの。メインの目的は、コミュニケーション能力を高めることです。文字で、画像で、ネットワークを使って…、コンピュータを通じて人と対話することを学んでほしいですね」と語る。
「コミュニケーションの相手は自分と同じような人間で、それぞれに背景があるということを認識させたい。そうすると、メールのやり取りをする際のマナーや、著作権に関することなども、身近なこととして捉えることができるのではないでしょうか」
学校内のコンピュータの環境が急速に整い、外部とのつながりも広がりつつあるという状況にあって、「環境が完全に整う前に、情報モラルの認識を高めておく必要があります。現時点で指導できることは、できる限りやっておきたいですね。子どもたちを守ることにもなると思います」と、情報モラル教育の重要性を強調する。
具体的な取り組みのひとつとして、いろんな資料から取り込んだ画像を使用する際には、何に掲載されていたものかを必ず記載するというルールを設けている。「著作権の概念を教えるのは難しい。小さなことから、繰り返し教えていくことが大切だと思います」
榊原先生が担任を務める6年1組では、今後、ペルーの学校の子どもたちとパソコンを使って交流する予定もある。「子どもたちはヤル気になっています。これをチャンスに、さまざまなマナーやスキルを身につけさせる作戦です(笑)」
昭和26年開校、学校名は、町内にあった大きな一本松に由来する。保護者が参加する“親子清掃”や地域のゴミひろいを通して環境を考える“たかぎ環境タイム”、福祉クラス“すみれ学級”の設置など、授業外活動も盛ん。児童数558名。