キャリア教育ヒントボックス
想像が映像になる面白さ
NHKエデュケーショナル・プロデューサー 梶原祐理子(かじわら・ゆりこ)さん
教育番組のディレクターへ
音入れ作業中。全体が見渡せる席に陣取り、スタッフに適宜指示を出す。
その梶原さんの希望は、入局してすぐに叶えられることになる。
「中学生が出演する討論番組、身近な地域について学ぶ小学生向けの社会科の番組、教育について考える保護者向けの番組。どれも面白く、制作に没頭しました」
そして、子どもが生まれたのを機に、梶原さんは人形劇に出会う。
「子どもから目が離せず、出張やロケに出にくくなり、ディレクターとして曲がり角に立たされたとき、『ざわざわ森のがんこちゃん』という人形劇を開発する幸運に恵まれました」
しかしこの番組、出張こそないものの、ディレクターは梶原さん一人。2週間に1本という速度で作らねばならない上に、編集まで梶原さんが行っていた。
「番組作りについての新聞連載も書いていたので、忙しさは尋常じゃなかったですね。でも、面白くてたまらなかった」
想像したことが形になる。放送すれば反響がある。ディレクターの仕事は、もの作りが大好きな梶原さんをとりこにした。
「視聴者から番組にいただくたくさんの手紙にも、すべて自分で返事を書いていました。番組で確かに何かが伝わっている。視聴者の方々を大切にしないとツキが落ちて、伝わっている何かが伝わらなくなってしまうような気がしたんですね」
腑に落ちる番組を
長らくディレクターを務めた梶原さんは、2年間の編成業務を経て昨年、NHKエデュケーショナルに出向となり、プロデューサーへと転身した。
「今まで全部自分でやってきたので、自分で直接やらないことの難しさは感じますね。でも、そこがプロデューサーという仕事の面白いところでもあります。ディレクターはじめ各担当者が力を発揮し、意欲的に取り組めるような環境を作りたいですね」
取材に伺った日は、6年生向けの歴史番組の音入れが行われていた。この番組は、シリーズ化をにらんだ試作番組だ。
「しっかりと"腑に落ちる"番組にしたいんです。歴史学習の番組は、映像として用意するのが難しいシーンになると、空や海などの映像とナレーションだけで済ませてしまうことも多かった。そこを変えていきたいんです」
本当に歴史が感じ取れるものを見せたい。興味を持って見てほしい。そんな思いが梶原さんの言葉にあふれる。
「例えば、長篠の戦いがあった場所に行けば、未だに鉄砲の弾が拾える。奈良の大仏であれば、開眼に使用された筆や、筆に結わえられて多くの人が握った細い綱が現存する。当時の映像はないけれど、そうして残されている本物から、歴史の奥深さを伝えていきたいですね」
現場にならえ
「みんなで共有できる番組を、心に響く番組を作りたいですね」と梶原さん。
学力向上につながる番組制作についても研究している。
プロデューサーという職に就く上で大切なことは。そう尋ねると、梶原さんはこう答えてくれた。
「興味・関心を広く持つことはもちろん、誰に、何を伝えたいのか、伝えることでどんな影響があるのか、伝えることに本当に意味があるのか、それらを冷静にイメージできることが重要だと思います」
そして、現場から素直に学ぶ姿勢もまた大切、と梶原さん。
「"浄瑠璃は三味線弾きにならえ"と聞いたことがあります。現場の技術スタッフは、我々とは比較にならないほどたくさんの本数にかかわり、さまざまな現場を見て、いろいろなタイプのディレクターやプロデューサーの仕事に接しています。そうした人たちの意見を真摯に受け止め、改善すべきを改善すれば、次もまた意見をくれる。一緒に考えてくれる。向上の近道です」
現場では仕事が深夜に及ぶこともある。子どもが小さいときは「これが限界か」「現場は無理か」と思うこともあった。
「そんなときはよく『自分がもし放送局に就職できていなかったら』と考えました。荒唐無稽ですが、お金を払えば放送局のスタッフとビデオ作品を作ってもいいよと言われたら、私はきっと貯金して、一生に一度の贅沢として1本の番組を作らせてもらうんじゃないかと空想しました。今、そうまでして叶えたい夢の中にいるのだから、あきらめてはいけないと」
この仕事の満足度は?と問うと、梶原さんはこう言って微笑んだ。
「高すぎて申し訳ないです」