キャリア教育ヒントボックス
ビジネスの才覚とピュアな感性の融合
銀座かずや店主 古関一哉(こせき・かずや)さん
ビビ21ドットコム代表・銀座かずや企画プロデュース 古関あさみ(こせき・あさみ)さん
「1日192個限定」
「1坪のお店」
「ふぐ庖丁師の免許を持つ和菓子職人」。
想像をかき立てるキャッチコピー。この上なく斬新で、それでいてやさしい味は行列を生んだ。
そこに隠されていたのは、姉の商才と弟の技。古関姉弟に「銀座かずや」の秘密を伺った。
1坪で1人で
弟・古関一哉さん。29歳。一児の父。店主として、家長として、煉りを究めたいと語る。「銀座で 間借りして店を出して、でも、当然ながら最初は売れなくて苦労しました。築地の料理屋でバイトをしていたこともあります。でも、そこでの出会いが今のお店へとつながっている。人生で無駄なことなんてひとつもないんですね」
まるでムースのような、なめらかでまったりとした舌触り。そして口の中に広 がる濃厚な抹茶の香り。かすかな苦みを残しながら、後味も爽やかに消えていく。 「かずやの煉(れん)」はそんな煉り菓子だ。
材料は京都宇治抹茶、胡麻、吉野本葛など厳選。火加減を調節しながら1時間近く煉り続ける。銀座かずや店主、古関一哉さんが1人で作り、1人で売るというスタイルをかたくなに守るがゆえの1日192個限定。予約しなければ手に入らない日もある。
「実は、接客が好きなんです(笑)。自分で作ったものを、自分でお客様に届ける。これは最高に贅沢なことですよね」
有楽町の雑居ビルの中にひっそりと息づく1坪の和菓子店は、お客さんが1人入ればそれだけでいっぱいになってしまう。新感覚の和菓子はクチコミで人気となり、メディアでも紹介され、開店前から行列が作られることもしばしばだ。
対照的な姉弟
小料理屋の長男として生まれた一哉さんには、5歳年上の姉、あさみさんがいる。店に出ていて忙しかった両親に代わり、あさみさんは自然と母親役を務めることに。また、あさみさんは小さいころからお店のお客さんと接することも多く、自然と人を観察し、分析する力を身に付けていった。
「どうすればお客さんが喜ぶのか、どうすればお店が繁盛するのか、子どもながらに冷静に分析していましたね」と笑うあさみさん。
たくましさを蓄積していくあさみさんと、あさみさんに守られるように育った一哉さん。英語専門学校に進み、自分の能力を遺憾なく発揮したいという明確なビジョンを持って貿易船会社に就職した あさみさんに対して、「何となく料理の世界に入るのだろうとぼんやり考えていました」という一哉さんは、とても対照的な姉弟だ。
海外で開花した商才
そうして社会に出たあさみさんだったが、選択した環境はあさみさんが思い描いていたものよりも、はるかにぬるま湯だった。
「このままでいいのだろうかと、とても不安でした」
自分の将来像が見えなかったあさみさんは、「本当に自分がしたかったことは、この会社にはない」と退職を決断。アルバイトをしてお金を貯め、単身ニュージーランドへ渡る決心をする。
「驚きましたけど、同時に、その行動力と決断力がまぶしかったですね。素直にすごい姉だなぁと尊敬しました」と一哉さん。あさみさんがニュージーランドへと渡ったのは21歳の春。一哉さんはまだ高校生だった。
職を求めてもなかなか願いはかなわず、まずは語学力を高めようと勉強を始めたあさみさんは、ようやく小さな土産物店で雇ってもらえることに。あさみさんの頑張りで、お店の売り上げは急上昇。
「自分の可能性を試したくて、オーナーに『私をマネージャーにしてください』とお願いしました」
黒字経営にしてみせるとオーナーを説得し、マネージャーとなったあさみさん。販売戦略を練り、実践し、1年後には前年比で倍以上の売り上げを記録。店舗拡張、売れる販売員の育成など、あさみさんはまさに水を得た魚のようにその商才を花開かせていった。